5者のコラム 「医者」Vol.29

法哲学外来の要件

 樋野興夫教授は「がん哲学外来入門」(毎日新聞社)でこう述べています。
 

日本人の2人に1人はがんになる。しかし患者は情報過多に迷い、医師は時間に追われている。医師が患者の話をじっくり聞くことが出来ない。がんは人を哲学者に変える。がんにおいて人は生と死の意味を問われる。患者のかかる実存的疑問に向き合う場がこれまで存在しなかった。がん治療にも哲学が必要だ。患者は「言葉」によって救われる。(9頁)

 私が夢想する「法哲学外来」が成り立つためには以下の要件が必要です。
1 法的知識(実体法も訴訟法も)
 クライアントは通常の弁護士さんの業務に納得できず愚痴を吐きに来られることが多いと予想されます。かような愚痴を正確に聞くためには多少の法的知識が不可欠です。
2 弁護士実務の知識(弁護士倫理や報酬相場を含む)
  弁護士に対する愚痴には「法律実務に対する誤解」も含まれていることが予想されますから、的確に対処するためには「法律実務の背景知識」(実働20年以上)が不可欠です。
3 綱紀・懲戒・紛議・市民窓口の知識
  現在「法哲学外来」的な役割は(ある程度)弁護士会の静脈系の制度が担っています。ゆえに依頼者の愚痴を聞くためには、かかる制度の内容と機能をも知っておかなければなりません
4 哲学(社会学)の知識
  法的紛争が人を哲学者に変えるのであれば「実存的な疑問」に対処するための哲学的(社会学的)議論の中身と方法に多少は馴れておく必要があります。
5 宗教・文学の知識
  依頼者に「意味による癒し」(ロゴテラピー)を与えるためには宗教や文学の知識が有益です。これらには「人類に生きる意味を与え続けた金言」が多数含まれているからです。

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