5者のコラム 「医者」Vol.76

サリヴァンの臨床的成功

中井久夫先生はアメリカの精神科医サリヴァンが臨床的に成功した理由を次のとおり指摘しておられます(「精神科医がものを書くとき」筑摩書房94頁以下)。
1 モラル・トリートメントの伝統(患者に優しい医療を実践した。)
2 クエーカーの「他人の教義押しつけの禁止」(患者の妄想を否定せず「無害な妄想は社会復帰の妨げにならない」として退院させた)
3 同僚医師・看護師・看護婦の士気の高さ 4 病院の環境の良さ
5 クエーカーたちの良心性と好況による財政的健全性
6 入院患者の階層の幅広さ(貧困層も治療した。)
7 アイルランド気質(主流派への抵抗精神・大家族主義の伝統)
8 軍人経験と軍事への関心(勝負師性・治療的布石の巧妙)
9 乱読による知識の豊富さ
10 事実調査と臨場感覚(社会調査とその基礎理。)
11 聴覚の鋭敏さ(患者の音調の仔細な変化も聞き逃さなかった。)
12 素人性(当時のペシミステイックな精神医学から汚染されなかった)。
 良い医師とは何か?という問題設定は「良い弁護士とは何か?」に通じます。私が感銘を受けるのは特に2・7・8・10・11・12です。依頼者に世間的規範を押し付けないこと・主流派への抵抗精神を持つこと・巧妙な問題解決的布石を打つこと・社会調査の基礎理論とリアリズムを重視すること・依頼者の仔細な変化に鋭敏であること・ペシミステイックな学説から汚染されないこと。これらは弁護士も大いに学ぶところがあると私は感じています。

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