5者のコラム 「易者」Vol.139

選べるのは何を捨てるかだけ

麻雀格言「どんな牌が来るかは選べない。選べるのは何を捨てるかだけ。それが選択というものの本質ではないか。」

弁護士も「どんな事件が来るか」は偶然です。「どんな依頼者が来るか」も偶然です。「どんな裁判官に当たるか」「どんな相手方代理人に当たるか」も偶然です。与えられた牌の中で自分の構想を立て何とか実現できるように努力するしかない。ツモは他の人と同じ機会を与えられます。その中で実現確率の高さと結果の良さを天秤に掛けて最大限の努力をするしかない。努力とは選択であり選択とは「何を捨てるか」の決断でしかない。それは100%が自分の主体的な決定です。何が来るかは偶然ですが何を捨てるかに偶然の要素はありません。
 弁護士の業務スタイルも同じこと。あるスタイルを選ぶことは他の何かを捨てるということです。弁護士の業務スタイルは数多くあります。都会か田舎か・スペシャリストかジェネラリストか・単独型か複数型か等々。これらは時間の経過によって変わりますし偶然あるスタイルになることもあります。しかし、少なくとも特定のタイプに「ならない」という選択は意志的なものです。私も今の仕事スタイルを「選択」したのですが、それは他のあり得た可能性を意志的に「捨てた」ということでもあります。現在、私の手の内にある牌はたいしたことのない役かもしれません。でも対局から降りる決断をしていない以上、手の内の牌を大事にしていく他はありません。58歳を過ぎて河の中に並んでいる捨てられた牌(選択できたかもしれない他の可能性)に感傷的になるときがありますけれども、過去を嘆いてもしようがありません。ある程度終局の場面が見えてきた今は手の内にある牌を大切にして「綺麗な役を上がれれば良いな」と思っています。