5者のコラム 「芸者」Vol.106

継続的視点で成長を観て頂けること

西尾久美子「京都花街の経営学」(東洋経済)に以下の記述があります(111頁)。
 

お客と芸舞妓さんたちとの関係は、お客が彼女たちを見守り彼女たちはお客に甘えるといった繋がりだけではない。芸舞妓さんたちは、芸事が上達したことをお客から誉めてもらえると本当に嬉しいと話すことが多い。芸舞妓さんたちにとってはお客から努力や技能を評価され認められること、しかも継続的な視点で自分の成長を観てもらっていることが一番嬉しいことなのである。こうしたことから芸舞妓さんたちはお客を単に甘えられる存在としてではなく、自分の技能の成長を見守り、それを適切に評価してくれる存在として見ていることが良く判る。また花街に長期に通っているお客ほど芸舞妓さんたちの技能を育てることを心がけ、時に応じて芸舞妓さんたちに声をかけて、その成長を誉めるようにしていることがお座敷でも見受けられる。しかも、きちんと芸が判るお客は芸舞妓さんたちがどういう言葉で誉めて貰うと嬉しいのかまで心得ているようである。

依頼者と弁護士との関係は、弁護士が依頼者に金銭的に甘え・依頼者は弁護士に法的に甘えるという繋がりではありません。弁護士は委任契約にもとづいて義務を果たしプロとして報酬を受領するというクールな関係です。しかし弁護士だって能力の上達を誉めてもらえると嬉しいものです。一般に弁護士の仕事は単発的なものが多いので継続的な視点で自分の成長を見てもらえる存在は普通ありません。あるとすれば、それは継続的契約関係にある顧問先です。なので顧問先から自分の成長を見守り、それを評価して頂けると励みになります。弁護士との関係に慣れて長期契約をいただいている顧問先には、弁護士の技能を育てることを心がけるとともに時に応じて弁護士に声をかけてくださることがあります。そんな良い顧問先に恵まれると「弁護士になって良かった」と実感することが出来ます。顧問先から信頼を得られる弁護士であるように努力を継続したいと私は考えています。