法律コラム Vol.75

過払金支払いを免れるための別会社悪用

 利息制限法違反の利息を収受していたサラ金業者が過払金支払を免れるため別会社を設立して新たに貸付業務を行うケースが見受けられます。以下は久留米に支店を有していた貸金業者Sの大株主*が別会社を設立し・S顧客を別会社に誘導(同じビルの3階から2階に)して・新規借り入れをさせ・引き直し計算をせずにSへの一括弁済に充てさせていたものです。以下は、この別会社から提訴された消費者(被告)側代理人として論じたものです(久留米の花田弁護士との共同)。

第1 事実関係
1 訴外S株式会社(以下単に「S」という)は昭和*年*月*日に設立され、*・*・*・久留米及び*に有人店舗を構える*財務局登録の貸金業者である(乙9)。Sは*が代表者であり、実質的にオーナーとして君臨している。同社は利息制限法の上限金利を超える高金利の貸付を行っていたが、最高裁判所平成18年1月13日判決により、旧貸金業法43条1項のみなし弁済の適用が実質的に否定されるや否や、過払金返還債務を免れるために廃業を決め、平成19年11月22日に貸金業務のうち貸付業務を廃止して、以後は残債権の回収業務のみを行うようになった。このころSは顧客の過払金返還請求権に基づく差押えを回避するため所有する全ての不動産を*がオーナーである有限会社*ビルディング名義に移転したり、*個人の責任を追及され固有財産を掴取されるのを防ぐため、*自身は代表取締役を退任している(乙14)。Sは現在も顧客からの取引履歴の開示を不当に拒否したり(乙15)顧客から過払金の債務名義を取得されても任意支払を拒否して資産を隠匿したりしており、利息制限法を潜脱する違法な過払い逃れ行為を行っている悪質な貸金業者である。
2 Sが貸金業を廃業するのとほぼ同じ時期に*は有人店舗がある久留米に、自身が株主となり従業員の多くをS取締役や使用人により構成する別貸金業者を設立した。*支店を「*ファイナンス株式会社」(乙16)*支店を「*クレジット株式会社」(乙17・S支店と所在地が同じ)、*支店を「*クレジット」(乙18現在は*市に移転・乙19)、*支店を「*クレジット福岡支店」、久留米支店を「*株式会社本店(原告)」(乙6・S支店と所在地同一)、*支店を「*クレジット株式会社」(乙20)として設立している。全て代表取締役が*であり、構成員のうち*・*及び*はSの取締役または使用人として共通している。Sは顧客に対し貸金業を廃業する旨を通知しSとの間の取引を一旦終了させ上記貸金業者を組織的に紹介し同内容の継続的契約を同じ顧客と締結した(乙21)。近時Sは未回収貸金債権を「*クレジット」に譲渡している。Sと上記貸金業者は「深い利益共通関係がある」というレベルにはとどまらず、実質的に「同じ貸主」である。
3 原告を含む上記貸金業者各社は形式的にSと別法人であるものの両社は*が所有する会社であり,その従業員の大部分も共通しており強行法規である利息制限法の制限金利を潜脱する過払い逃れ目的で設立された貸金業者である。Sによる上記契約切替の勧誘はオーナーである*の絶対的な意向によって利息制限法を潜脱するために原告らと共謀して行われた。本件は、いわゆる「おまとめローン」や「借入先と関係のない別の貸金業者からの借入れによる一括返済」とは全く異なる。
第2 法的評価
1 原告も引用している最高裁判所平成23年9月30日判決は、クオークローンで発生した過払金がプロミスにも承継されることを認め、かつ、クオークローン取引とプロミス取引を一連取引として過払金額を計算すべき旨を判示したものである。この判決は、プロミスの勧誘に応じた顧客がプロミスの完全子会社であるクオークローンとの間で、形式上プロミスからの借入金によりクオークローンに対する約定利率による残債務を完済し,以後はプロミスとの間で継続的金銭消費貸借取引を行うという契約の切替えをした事案である。最高裁は①プロミスが貸金業者の子会社の再編を目的としてクオークローンの貸金業務を廃止しプロミスに移行・集約するために業務提携契約を締結し②クオークローンとの取引に係る紛争等の窓口が今後はプロミスになることなどが記載された書面を示して顧客に基本契約を締結することを勧誘し③顧客が上記勧誘に応じ書面に署名してプロミスに差し入れた場合,プロミスはクオークローンの取引に係る債権を承継するだけでなく債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当と判示した。
2 最判の事案においては仮に契約切替えに形式どおりの効果を認めるとすれば、顧客は切替え時点で既に過払いとなっており、法的に返済債務がない状態であったにもかかわらずプロミスから新たな借入れをしたためにプロミスに対し貸金返還債務を負担することになっっていた。たしかに借入先と全く関係のない別貸金業者からの借換えならば、このような効果が生ずることは当然であり、顧客にもその認識があるといえる。しかし上記判例の事案は上記契約の切替えが「グループ会社再編」を目的とするプロミスの勧誘に基づいて行われており顧客としても不利益がないとの認識で切替えに応じている点で、通常の借換え事案とは異なっていた。ゆえに上記契約の切替えに関し形式的どおりに同じ効果を認めることは顧客に不意打ち的に不利益を与えるから許されない・利息制限法の引直計算において各取引は通算されるべきだ、との価値判断が判旨の基礎に存在する。
3 本件事案においては①「グループ会社再編」目的よりも悪質である「利息制限法制限利率を潜脱する」目的でSの貸金業務を廃して原告らに集約することを*を中心に共謀し②「うちはもう閉めるから、*(原告)から借金して返済してくれ」と言って被告に基本契約を締結することを勧誘し③これに応じた被告が原告に借用証書(甲1)を差し入れたという事実が存在する。ゆえに上記最判を前提に評価するならば、原告は被告と「Sの債務についても全て引き受ける」旨を合意したものと解すべきである。百歩譲って仮に上記合意が認められなかったとしても、貸金業者との継続的金銭消費貸借契約においては借入と返済を繰り返しながらなんとか経済生活を維持している顧客が多い。貸金業者から急に「今後の貸付業務を終了する」と告げられても,その後の生活の遣繰りができなくなることから,半強制的に切替処理に応じざるを得ないのが実情である。しかるに原告とSが主導して切替処理が行われたことが認められる本件において「Sとの取引については関係が無い(一連取引ではない)」との主張が許されるならば、このような組織的・共謀的な切替により本来は過払状態にある顧客から改めて約定残高及びそれに対する利息を支払わせることが容易に可能となる。しかもSの貸付金債務の全てを原告に切り替えさせた上でSの貸付業務を停止すれば、Sには支払能力がないために、事実上過払金返還債務の支払を免れる一方で、*は強行法規である利息制限法に反していたはずの約定残高に基づく請求権を取得することになり、*は二重に利得することになる。かかる事情の下で原告がSの過払金返還債務を負担しないと主張することは信義則に反すると評価すべきである。

* 久留米簡易裁判所において、事案の内実を把握した裁判官から、強力な和解勧告が為されました。過払金承継を認識して原告主張金額を減額した金額の支払義務を被告が認めて長期分割で支払う案です(Sへの請求債権は放棄)。この和解案を双方が受諾し「和解に代わる決定」が為されたため本件訴訟は終了しました。

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