法律コラム Vol.44

憲法講座挨拶

 筑後部会は市民に向けた憲法講座を開いています。今年は「日本の安全保障を考える」というテーマで5月29日に開催しました。その際の部会長挨拶です。

 本日はお忙しい中、筑後部会主催の憲法講座に足をお運びいただき有り難うございます。当部会は5年前から憲法講座を開催し、市民の皆様とともに憲法の今日的意義を考えています。本日の講座の趣旨、その内容とスタイルの意味について、考えるところをお話しします。
 まず内容について。憲法は国家権力を拘束する法です。それは実体的拘束として尊厳ある個人の幸福の実現こそが国家の存立目的であることを明らかにし、これを実現する手続的拘束として民主制と権力分立による統治機構があることを明らかにしています。非常事態はこれらを破壊する契機を含みます。昔、ドイツにカール・シュミットという憲法学者がおり、非常事態に決断を示すものが真の意味の憲法だとの所説をあげました。憲法学的には一定の意義を認められていますが、この学説がナチスのイデオローグとなり独裁政治に道を開いたという歴史を我々は意識しなければなりません。東西冷戦体制が終焉した今日、日米安全保障条約の意味、アメリカ軍基地が沖縄に集中している意味が問われています。本日の議論は憲法と政治の関係を考える絶好のテーマだと思います。次にスタイルについて。日本人は政治と宗教について議論するのが下手だと言われます。直ぐ喧嘩になってしまうというのです。しかしヨーロッパでは政治と宗教こそ知識人の議論対象として最も高尚なものです。これらを冷静に論理に従って議論することこそが民主政治の礎ではないかと感じます。今日ディベートを行うのは筑後部会所属の若手弁護士です。弁護士は熱い対象を冷静に論理に基づいて議論するプロフェッショナルです。安全保障という難しい問題をプロフェッショナルがいかに議論していくのか?本日は議論をお聞き頂いた後いずれの立論に説得力を感じたかを市民の皆様に投票して頂き、久留米大学の日野田先生に講評頂くことになっています。論理と証拠に基づいて議論し公正中立な第3者がこれを判定するという、この法律家独特のスタイルにも是非ご注目いただければと思います。
 本日の講座が日本国憲法の今日的意義を考えるにあたり、何がしかの材料を市民の皆様に提供できれば、主催者としてこれに勝る喜びはありません。

* 当日は一般市民49名、コメンテーター1名、弁護士17名という多数の参加を得て、盛況の内に講座を修了することが出来ました。

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