法律コラム Vol.14

ワラント訴訟

 初めて参加した集団訴訟がワラント訴訟です(ワラントとは新株予約権のこと・会社の株式を一定価格で買い付けることが出来る権利)。バブル崩壊直後で無価値のワラントで被害を受けた方による損害賠償請求訴訟が多発していました。当時私は弁護士1年生でしたので専門用語が頻出する書面の応酬に悩まされました。以下は地裁判決に対し高裁に控訴したときの書面です。(私が起案したものですが他の先生により大幅に加筆修正されています。)

第1 ワラントの特徴と問題点
1 ワラントの商品性の特徴
 原判決はワラントの理解が表面的であり、説明義務の一般的な基準を定立することを放棄し、被害者ごとの個別具体的な判断に留まっている。しかし、これはワラントの商品性について入口に立って眺めただけのものである。控訴審準備書面2であげた諸判例はもっと深くワラントの商品性について理解を示した判示をしている。
 イ 現物株価との関係で言えば、
   ワラントは株価が権利行使価格を超えない限り理論的に無価値である
 ロ 行使期限との関係で言えば、
  ①実質的に最終期限の1年は価格がつけられず売却が不可能である、②株価が権利行使価格を下回り、権利行使期限が2年を切るようになった銘柄は取り引きされる割合が大きく低下する。
 ハ 価格変動との関係で言えば、
  ①ハイリスクハイリターンの商品であり、特にそのリスクの内容は、株価に比べて大きく変動すると言うのみではなく、新株引受権の権利行使時の株価が権利行使価格とワラント購入コストを下回れば、理論的には経済的価値は無く、プレミアムを考慮しても、株価の低迷が継続する状況ではワラントの取引上の価値がなくなり、投資家は購入代金の全額を失う危険がある、②ギアリング効果がある・加えて株価との連動性やギアリング効果は、プレミアム価格と株価との間では必ずしも明確なものではなく、特にプレミアムか各部分が大きいワラントの値動きは、株価の変動と対比して、より複雑なものとなり予測が更に困難なものになる、という諸点がワラントの性質である。
2 ワラントの問題点ないし特質
  諸判例はこの点について①価格形成システムが十分であるとは言えず一般投資家がその価格変動についての情報を入手することは容易ではない②相対取引であり公的な相場価格がないため価格決定経緯が不透明である③特に外貨建ワラントの取引については価格形成過程を把握することが一般投資家にとって困難である、等判示している。原判決は上記ワラントの特質を見落としている。
3 説明すべき内容
 以上の特徴を踏まえると次の諸点が説明すべき内容となる。権利行使価格と現在価格との関係では「現在の株価が権利行使価格をどれくらい上回っているかということ」、ロ残存期間との関係では「残存期間がどれくらいかということ」「プレミアムは期限が近づくに従って減少し行使期限が1年を切ると売却できなくなること」「残存期間が短くなったワラントは売却が困難となるおそれが大きく、この点のリスクを正確に認識する必要があること」価格変動予測に関しては「これが極めて困難であること」、権利行使価格に関しては「今後の株価が相当の率で上昇したり権利行使価格を上回ると考える根拠と確度」。原判決は説明義務の定立を放棄し証券会社を安易に免責している。
第2 原判決の不当性
1 事実認定の仕方
  原判決は事実認定において証券会社社員が説明していたと強調する。賠償義務が肯定された事案ですら説明されているとの「事実」が認定されている。認定の対象となる「事実」としての説明と法的「評価」としての説明が不分明である。意図的に両者が混同されていると言っても良い。
2 賠償義務(規範定立とあてはめの仕方)
  原判決がその総論部分においてワラントの商品性についての理解を全く示していないことは前述した。かかる無理解により原判決が一般的説明義務を肯定しておらず、その内容を明示することも放棄していることは当審で既に述べた。しかし各論において義務違反を認める以上、裁判官は準備書面2で明示した具体的内容をもった説明義務の基準を総論的に定立しなければならないはずである。説明義務の内容を明示した上で、社員のどの行為が右義務に違反しているかの端的な当てはめが示されなければならない。原判決はかかる初歩的作業を放棄しており、かかる作業放棄の言い訳として「一応の説明」という概念を使用している。しかし、義務違反を認める以上、その前提となる概念の内包と外延は明確に示されなければならない。そこには「一応の説明」という概念を容れる余地はない。説明義が尽くされているか否かは肯定・否定のどちらかであって中間はない。もしも原審裁判官が「説明的言辞は示されているが不十分だ」と考えたのならば端的に「説明義務に反する」と断言しなければならない。その上で次に過失相殺すべきかどうかの問題の判断が示されるべきことになる。
3 過失相殺
  原判決は具体的に被害者側にいかなる事実があることをもって過失相殺事由としているか明らかにしていない。諸判決では相当の投資経験者に関しても何が「被害者側の落ち度」として具体的に問題となるのか明示の上で過失相殺について判断している。原判決は具体的理由を示さないまま「十分な検討をすることなく購入した過失」を認定している。端的に「理由不備」の違法がある。

* 個別事案の判断は個々具体的な事実関係によって異なります。いわゆる「適合性の原則によって判断される傾向が強いと言えましょう。

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