法律コラム Vol.46

クーリング・オフ

 特定商取引法は契約後も一定期間は消費者が無条件で申込みの撤回又は契約の解除を行うことを認めています。期間は8日で消費者が法5条の書面を受領した日から起算します。8日を過ぎて意思表示をする場合、その有効性は受領書面が法5条の要件を満たすか否かにかかります。以下はエステ業者と契約をした消費者に対して信販会社が立替金を求めた事案で作成した準備書面です。

 法定書面(5条)が備えるべき要件は原審準備書面3で詳論したところであるが、控訴人が主張する甲*号証がこれを満たすものでないことは一目瞭然である。イ役務提供事業者の氏名・住所・電話番号(これは一応表示されている)。ロ提供される役務の名称(グランプリ*さんプランでは少なくとも提供される役務の名称をそれ自体で特定しているとは言えない。他の書面を借りなければ内容が判らないようでは法定書面とは言えない)。ハ役務の提供に際し役務の提供を受けようとする者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品名・種類および数量(甲*には「種類」も「数量」も示されていない。甲*には単価は記載されていないものの一応回数が記されている。しかし甲*には単価も回数も1回あたりの施術時間も総時間数も全く何も記載されていない)。ニ役務の提供に際し、役務の提供を受けようとする者が支払わなければならない金銭の概算額(これは一応表示されている)。ホ・ニに掲げる金銭の支払いの時期及び方法(具体的にいつ支払をすることになるのかの明示がない)。ヘ役務の提供期間(有効期限として平成*年*月*日が書かれているものの、これは役務の提供期間ではない。乙*号証のプリペイドカードのようなものには別途「有効期限」が手書きで書かれているが、これらは*年*月*日、*年*月*日とされている。店員は有効期限の過ぎたプリペイドカードの使用は認めない。ゆえに、本件契約において役務の提供期間は書面上明示されていないことになる)。ト法48条1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項(甲*の表には書かれていない。甲*の裏に書かれているか否かは不知であるが、一般消費者は裏に書かれた細かい字は読まないのが通常である。これらは例文と考えるのが相当である。なお、契約解除の際の解約損料のことが裏面に不動文字で印刷されているけれども実際に意味を持つ中身の部分が書かれていない)。チ法第49条1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項(甲*の表にも裏にも書かれていない)。リ割賦販売法第2条2項に規定するローン提携販売の方法又は同条3項の規定する割賦購入あっせんにかかる提供の方法により役務の提供を行う場合には同条29条の4第2項(書かれていない・中途解約の際の抗弁権の接続があることだけ記載)。ヌ特定継続的役務提供に係る前払取引(一応書かれている)。ル特約があるときは、その内容(乙*のプリペイドカードのようなものに別途有効期限が手書きで書かれている。店員は有効期限の過ぎたプリペイドカードの使用は認めないから、これらは「特約」と考えることが出来るところ、その内容が明示されているとは言えない)。控訴人は、交付された書面に法定書面の要件が欠けていても、クーリングオフの消滅時効期間が進行しないのは「その欠缺が著しく消費者が契約内容を特定把握できない場合に限られる」という独自の規範を主張する。しかし、かかる規範は実定法上存在しない。控訴人は「自分の主張に従えば自分の主張の通りになる」という同語反復(トートロジー)を言っているに過ぎない。特定商取引法は消費者保護法である。法定書面の要件をみたしているか否かは特定商取引法の趣旨に鑑み厳格に解さなければならない。そうでなければ、貸金業法において甚大なる多重債務被害を生み出した初期の裁判所の過ち(任意性の要件を緩く解釈したため利息制限法以上の利息収受が容易に正当化された)を繰り返すことになる。

* 裁判所は法定書面の交付を認めませんでした。判例状況は斎藤雅弘他「特定商取引法ハンドブック第3版」(日本評論社)66頁以下が詳細です。

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