法律コラム Vol.120

株主総会決議を経ない役員報酬の支払

株主代表訴訟には多くの類型がありますが、その1つに株主総会決議を経ない役員報酬の支払いを争うタイプがあります。近時、原告側で訴訟遂行したので紹介します。福岡地裁久留米支部は原告を含む「総株主の同意」があったとして原告の請求を全部棄却したので福岡高裁に控訴しました。以下に挙げるのは控訴理由書の結論「原判決が破棄されるべき理由」部分です。

1 訴訟構造(要件事実的整理)
  原審準備書面3で明示しているとおり、本件は請求原因には争いが無く被控訴人の抗弁(支払を正当化する事実と規範)の成否が争点になる事案である。抗弁の主張立証責任は被控訴人にあるので抗弁の成立が認められなければ請求は認容されなければならない。
2 控訴人の主張:抗弁の否認
 事件が発生する前の経営陣は全て「与党」で形成されていた。控訴人は自己の票と*グループの票を得て株主総会に臨んでいた。当時は被控訴人も経営陣の1人だったから執行部提案に賛成する株主100%となることが(通常の場合)必然だった。従前の役員報酬はこの「総株主の同意」のもとに決められたのである。これこそは総会決議が無い場合に報酬支払いを合法化する唯一の根拠なのであった。原判決は事件発生前の役員報酬の支払いが、そのままで事件後の支払を正当化するように認識しているが不合理きわまりない。被控訴人は平成*年*月*日株主総会で自己の役員報酬を減額する議決をされたことがある。*氏も出席し賛成の議決をした。被控訴人の反対にもかかわらず株主総会決議で決まった(ゆえに総会議事録に明記されている)。「総株主の同意」が得られないからこそ株主総会で明示的に「採決」をして議決されたのである。総株主の同意がない場合には「株主総会の決議がなければ役員報酬額は決定できないこと」を被控訴人は熟知していた。なのに被控訴人は事件後の総株主の同意が存在しない状況下で(株主総会の決議なく)役員報酬を勝手に増額し支給を受けている。これが違法であることは明らかである。
 なお原判決は「総株主の同意」を認定する材料の1つとして令和*年*月*日定時株主総会における決算承認(丙*の1枚目)を挙げるが、このときに為されているのは決算の報告に過ぎなかった。監査役*も報告をしたに過ぎない(表題として承認と名付けられているだけ)。本件で決算「承認」は付議されなかった(実質的な議論は全くしていない)。ゆえに控訴人が役員報酬を含む決算承認案に賛成した事実は存在せず「総株主の同意」は成立しない。(以下は略)

* 令和4年12月27日、福岡高等裁判所は請求を一部認容する判決をしました。控訴人が従前認めていた取締役報酬額について「総株主の同意」が成立するとしながらも、控訴人が(株主構成の不本意な変動によって)代表取締役の地位を追われた後、現在の執行部が勝手に「増額」した報酬部分500万円につき「総株主の同意」は成立しない・よって「株主総会決議によらずに支出された報酬の総額に関し役員全員が連帯して返還すべき義務を負う」という論理構成です。
* 「総株主の同意」という概念は「あるか・ないか」というオールオアナッシングの論理で為されるものとばかり感じていたので「対象の性質により部分的に(実質的に)適法性を判断する」という福岡高裁の斬新な判断技法には感心しました。
* 令和5年9月20日、相手方の上告兼上告受理申立は棄却され、福岡高裁判決が確定しました。代表者名義で(遅延損害金を含めて)535万5068円が会社に返還されました。これを受け会社に対し会社法852条1項にもとづく弁護士費用(相当額として約1割である)54万円の請求を行い、直ちに支払いがなされました。いろんな意味で勉強になる事案でした。

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