5者のコラム 「役者」Vol.117

適正の壁と生活の壁

前田司郎「口から入って尻から出るならば口から出る言葉は」(晶文社)はこう述べます。

演劇をやっていると幾つかの壁が見えてくる。代表的なのはまず才能の壁。これを超えないとっと言うか、才能が無いといくらやっても絶対駄目である。だけど才能が無いって自分に対して証明するにはずっとやってみてそれでも駄目である必要がある。とにかくやり続けてそれでも駄目だったときに初めて自分は才能が無いと知るわけだから、それに気付いた時は手遅れだという残酷な壁なのだ。(略)次に目立つ大きな壁が生活の壁だ。これにブチあたると、いくら才能があっても家庭の事情や金銭的な理由で演劇が続けられなくなっちゃうのだ。

弁護士業的には「才能」を「適性」に読み替えたいと思います。弁護士業に才能は特に求められておらず、真に必要なのは法律業務に対して「向いているのか」という適性の観点だからです。まず適性の壁。これを超えないとっと言うか適性が無いといくらやっても弁護士業は絶対に駄目です。この意味ではシビアな仕事です。ただ適性が無いって自分に対して証明するにはずっとやってみてそれでも適性がないと知る必要があります。とにかくやり続けてそれでも駄目だったときに初めて「自分は適性が無い」と知るわけだから、それに気付いた時は手遅れという残酷な壁です。なので早い段階で「自分にこの仕事は合っていない」と感じられたら早めに方向転換を目指す方が良いでしょう。次に生活の壁。これにブチあたると、どんなに適性があっても金銭的な理由で弁護士業が続けられなくなります。昔はこの壁は低く、ある程度の適性のある方ならば生活の不安を感じること無く弁護士業を続けることが出来ました。しかし「司法改革」以降は適性だけでは仕事を続けられなくなりつつあります。しかもこの壁は長い間つきまとってくるのです。難儀な時代です。