法律コラム Vol.87

危機に立つアメリカの弁護士

日弁連会誌「自由と正義」(2016年10月号)に「危機に立つアメリカの弁護士」と題する論文が発表されています(吉川精一弁護士執筆)。弁護士の10年後・20年後の姿を見極めるために重要な論考なので要約文を作りました。誰かの役に立てると嬉しいです。

2010年、アメリカの弁護士数は120万人を超えた。2008年に於ける「弁護士業界」の総売上高は約2360億ドル(約26兆円)となった。
 アメリカでも弁護士は「プロフェッション」と呼ばれてきた。プロフェッションとは「公益に奉仕する精神の下に共通の天職として学問的技芸を追及すること」であり、それがたまたま生活の手段となることはあっても、あくまで公益を第一義とするものであった。しかし1980年頃からアメリカの弁護士は産業化・非プロフェッション化した。その後も商業化は進行し、21世紀に入ってからは弁護士業は「産業」(インダストリー)であることを何人も疑わない現実となった。現在、アメリカの弁護士は二極化・階層化が進んでおり、内部での同質性・一体性が失われつつある。大企業を顧客とする大事務所と小企業および個人を顧客とする中小事務所との間の二極化が進行し町弁護士は衰退した。大事務所内部においても階層化格差が進行している。その結果、弁護士のプロレタリア化も生み出している。大事務所の勤務弁護士は、官僚的大組織の歯車として、処理する案件の全体像が見えないまま、細切れの既製商品的な仕事を処理している。最近はテンポラリーローヤーと呼ばれる弁護士も急増している。自分の事務所も雇用主もなく、弁護士派遣会社に登録して大事務所が臨時的に雇う日雇い弁護士のことだ。彼らは「惨めで搾取されている」と感じている。
 アメリカの企業弁護士も、昔は、依頼者からの尊敬と賞賛を人生の目標としていた。しかし今日では彼らの最大目標は自らの私欲を満たす極端な利益至上主義と化した。その結果、倫理の荒廃・事務所の一体感喪失と不安定化を招いている。アメリカの弁護士は社会全体に奉仕できていないという意味で瀕死の状態にある。自らの仕事・キャリアに満足できず不安や不幸に感じている弁護士が増加している。調査によれば対象弁護士の70%が他の職業に就きたいと答え、75%が自分の子供は弁護士にさせたくないと答えた。若者に「ロースクールに行け」と答えた者は50%に満たなかった。精神的障害を持つ弁護士も多い。弁護士の20%にうつ病にかかった経験がある。これは他職業の3・5倍の高さであった。金銭的に成功した大事務所のパートナー弁護士でも「燃え尽き症候群」や「うつ」に悩んでいる者が多い。弁護士過剰に拍車をかけているのは弁護士を不要とする構造的要因(情報革命・経済のグローバル化・非弁護士による弁護士業務への参入・法制度改革・司法予算カット)である。現在、50万人の弁護士が弁護士資格を必要とする職に就いていない。ロースクールの新卒者は深刻な就職難に陥っており、2011年に弁護士資格を取得した新人の55%は弁護士資格を必要とする仕事に就職していない。ロースクール卒業生の85%は平均で10万ドルの借金を抱え困窮状態にある。ロースクール志願者も2004年に10万人だったものが、2013年に5万4000人、2014年には3万8000人と激減し、ロースクールが危機に陥っている。

* 「司法改革路線」が続いていけばアメリカを追う形で日本弁護士の窮状も更に進むでしょうね(既に相当程度は現実化しています)。悲しいことですけど。

前の記事

自由財産の拡張申立

次の記事

ハラスメント研修