法律コラム Vol.54

相隣関係訴訟の難儀

隣り近所の問題は話し合いで解決することが望ましいのですが解決策が見いだせない場合は訴訟提起せざるを得ません。隣近所の問題は適切な紛争解決基準がないことが多く、弁護士は訴状を書くのにも難儀します。(久留米の仲家・牛島弁護士との共同)。

第1 請求の趣旨
1 被告は原告に対し別紙目録記載の土地上の土盛(別紙図面1の赤線部分)を撤去せよ
2 被告は原告に対し別紙目録記載の土地上の排水路につき傾斜を西側に傾けるなどして改修せよ
3 訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求める。
第2 請求の原因
 1 当事者(略)
 2 請求の趣旨第1項について
 (1)自己所有地の土盛も全く自由というわけではなく、その土盛を必要とする土地所有者側事情とその土盛によって隣接地等に及ぼす影響等を比較検討し、上記土盛を行うことが社会通念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、土地所有者の権利の濫用であると認められる場合は土盛を行うこと自体が許されない(東京地裁昭和61年9月5日判決)。
 (2)昭和*年頃、被告の父*から原告に対して、被告土地と原告土地の境界上にブロック塀を設置したいとの申し出がなされた。原告はこれに応じ、工事については故*に一任する形で共同の費用で本件ブロック塀が設置された。しかし本件ブロック塀設置後まもなく、故*は庭園を作るために原告に無断で塀際に1メートルを超える高さの盛土をした。盛土の重みによって本件ブロック塀は原告側宅に傾きつつあり、その影響により本件ブロック塀と梅林側ブロックの間に隙間が生じている。そして、その隙間は日々拡大している。
 (3)土盛の経緯・原告宅に対する影響を考えれば社会通念上妥当な権利行使としての範囲を逸脱し、土地所有者の権利の濫用である。請求の趣旨第1項の請求が認められるべきである。
 3 請求の趣旨第2項について
 (1)他土地に排水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により自己の土地に損害が及び又は及ぶおそれがある場合に、土地所有者は当該他の土地の所有者に工作物の修繕等を行わせることが出来る(民法216条)。本条の趣旨に鑑みると「工作物の破壊又は閉塞」により損害が生じる場合のみならず設計ミスや施行ミスにより工作物が通常備えるべき性質を具備していないことに基づいて損害が生じる場合も類推適用によって修繕等の請求権が認められるべきである。
 (2)雨天時に本件ブロック塀の透かしブロックから土砂が原告宅に流入する事態が恒常化した。故*は土盛のうち本件ブロック塀に沿った部分の土を20センチほど掘り下げて小規模の本件U字溝を設置した。しかし本件U字溝が小さく梅林方向に流れるように傾いていることや溝の鉄板の蓋が流れを妨げていること等が原因となって被告土地から原告土地方向に雨水や泥水が流れる常況になっている。前述した盛土の加重が影響でブロック塀が傾き、そのためブロック塀と本件土地の梅林側ブロックの間に隙間が生じており、隙間が日々拡大している。隙間から雨水泥水が原告土地に流入しており雨量の多い時に流入は多量なものとなっている。
 (3)本件は排水路の設計ミスや施行ミスによって通常備えるべき性質を具備していないことに基づき損害が生じているものと認められる。ゆえに請求の趣旨第2項の請求が認められるべきである。

* 本件は相手方が調停に応じないため、やむなく訴訟提起にいたったものです。要件事実的整理が難しいため、訴状作成には気を遣いました。改修に関する被告との合意を訴訟外でまとめることが出来、その合意に従い改修工事が完了したために訴訟は取下げました。