法律コラム Vol.114

介護施設における誤嚥事故

介護施設の事故で多いのは転倒と誤嚥です(2012年8月31日「介護事故の研修会」参照)。以下に挙げるのは筑後地区の某高齢者介護施設で発生した「誤嚥による死亡事故」に関する訴訟で述べた「救命可能性」に関する原告側準備書面の一部です。

第1 一般的医学規範

  1. 窒息発生時の対応手順について(甲*号証)
    窒息事故が発生した場合、直ちに医師に連絡するとともに意識状態を確認して次の対応をしなければならない。①意識がある場合は異物の除去に努め改善があれば安静と経過観察で良い。②意識が無い場合(当初意識があっても事後消失した場合を含む)は直ちに119番通報をして救急車を依頼する。意識が無い場合に漫然と①を継続するのは適切ではない。
  2. 意識障害者に対する基本的処置について(甲*号証)
    ①気道確保②呼吸管理③循環管理④意識障害の評価⑤全身観察と体温管理。意識障害が見られる場合に素人が漫然と対応を続けてはならない。直ちに119番通報をして救急車出動を依頼し有資格者に上記処置をしてもらうべき。
  3. 救命措置の内容について(甲*号証)
    (1)一次的救命処置 
      ①反応の確認②呼吸の確認③胸骨圧迫と人工呼吸④AED装着⑤心電図の自動解析と電気ショック。ただし、意識障害がある場合は直ぐに(2)に移行すべき。
    (2)二次的救命処置(資格を有する医療従事者によるもの)
      ①高度な気道確保(気管挿管等)②胸骨圧迫と人工呼吸 ③ 蘇生薬投与経路の確保④除細動器または心電図モニター装着⑤原因検索と治療 。
第2 本件事案における具体的救命可能性

  1. 本件における出動消防署
    訴状では*地区の救急体制とこれにもとづく救命可能性を論じていたが弁護士会照会をするにあたり*消防署と*消防署で確認をしたところ事故発生地が*なので救急出動をするのは*消防本部*消防署になるとのことであった。
  2. 弁護士会照会の結果(甲*号証)
    弁護士法第23条の2にもとづく同消防署への照会結果は以下のとおりである。
    (1)救急車で*(事故発生地)に救急出動する場合の所要時間
       イ *消防署出動から到着までの平均所要時間  約*分
       ロ 搬送開始から病院到着までの平均所要時間  近場だと*ないし*分
    (2)誤嚥をした患者に関する救急出動要請が為された場合に救急隊員が搬送先の病院に到着するまでに為しうる救命措置の内容
    口腔内に異物があればマギール鉗子等の器具を用いて異物除去・吸引器を用いて異物吸引・気道確保を行い酸素投与を実施。必要であればBVMで補助換気。心肺停止の場合、胸骨圧迫・人工呼吸(器具を用いた気道確保)・適応であればAED・救急救命士がいる場合は静脈確保とアドレナリン投与を実施。
  3. 結論
    以上の回答内容から考えて、本件誤嚥事故が発生して被告が直ぐに救急出動の要請をしていれば故*(被害者)の救命可能性が高かったことは明白である。

* 本件は裁判上の和解が成立して終了しました(和解内容は部外秘)。

* 平田厚「介護事故の法律相談」(青林書院)が良くまとまっています。

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