5者のコラム 「医者」Vol.163

系統立てた態度教育

磯部光章「話を聞かない医師・思いが言えない患者」(集英社新書)はこう述べます。

筆者が30数年前に医学部の学生だったときに患者とのコミュニケーションというのは全く習っていない。その概念さえ無かったように思う。研修を受けるときも、専門になっても、病を持った人間を診療するという意味での医療を習ってこなかった。おそらくつい最近までこのような系統立てた態度教育というのは日本の医学部の中で行われてこなかったのではないだろうか。筆者自身、医師に成り立ての頃、初診の患者を診察する場合に自己紹介をしたことが無かった。ほとんどの医師がそうだったのではないだろうか。医師が名札もつけていない時代があった。それが新しい医学教育を学ぶ中で医師はまず患者に自己紹介をするものだと知った。

修習生の頃、依頼者や相談者とのコミュニケーションを意識的体系的に習ったことはありません。その概念さえ無かったように記憶します。実務に入り弁護士会で研修を受けたときも「生きた人間と応対する」という意味の方法論は全く習いませんでした。現在も、かような系統立てた法学的態度教育は法曹養成制度の中で行われていないのではないでしょうか。弁護士初期の頃、法律相談では自己紹介をしませんでした。市役所等においては弁護士が名刺を渡すことすら禁止されていました。何故なら「市役所相談は市から委託を受けた弁護士会が行うものであり、弁護士はその手足として対応している」との規範が強固に存在したからです。担当弁護士の名前の付いたプレートすらありませんでした。しかし現在では法律相談センター等において弁護士名が入ったプレートが準備され、最初に弁護士から相談者に対し挨拶と自己紹介をするのが当たり前になっています。良い変化だと思います。相談者との法律的コミュニケーションも「普通の会話」の延長線上にあるのですから。

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