事実と評価の拡張・自分に出来ることは何か
黒服コタロウ「売れっ娘ホステスの会話術」(こう書房)に次の記述があります。
事実は1つかもしれません。でも、見方は千差万別です。事実は変えることが出来ないけれど、マイナスな事実をマイナスなままダイレクトに受け止めるのではなく、その事実をどのように観たらその人にとっての良いところを見付けることが出来るかを考え、視点を変えてみる。これが陽転思考の会話術です。
事件に取り組む実務法曹は上記記述を二段構えで拡張することが出来ると考えます。
事実は1つではありません。「事実とは何か」こそ法曹が常に悩んでいること。たしかに争いのない事実はあります。客観的に動かしようのない事実もあります。でも、その周りには人によって捉え方の異なる淡い事実が拡がっています。依頼者から聞く事実と相手方から示される事実の相関関係に於いて弁護士が行動の基礎にすえる「事実」は刻々と変化していきます。事実の「評価」だって単純ではありません。前提する法規範自体に解釈の争いがあり得ますし事実と評価の間にある「経験則」の認識も法律家によって大いに違っています。したがって相談者や依頼者に有利な法規範や経験則を援用することで、それまでとは異なる評価(事実の意味付け)が出来る場面は(世間で思われているよりも)多いのです。弁護士の「技術」だって結局は人と人。一番大切なのは相談者や依頼者のことを思いやる気持ちです。「自分がこの人のために出来ることは何か」を考え続けることです。というよりもそれしかない。その気持ちを出発点にして、培ってきた実務法曹の技術を当該事案に注ぎ込むこと。弁護士が「売れっ娘ホステス」さんに学ぶべきはこの心構えでしょう。