精神医療施設における虐待防止
筑後地区における某精神医療施設において医療者による「虐待防止」に関する研修会の講師を依頼されたので準備したレジュメです。実際の研修内容に合わせて若干補正しています。
1 精神保健福祉法の理解(別紙)
精神保健福祉法36条は、患者が行動の自由を有することをふまえて、精神病院の管理者が「その医療又は保護に欠くことの出来ない限度において」患者の行動について制限を行うことが出来ると定めます。精神科における治療は患者の人格に関わる面が多いだけに「患者の人格の尊厳」を尊重し、その「基本的人権を保障すること」が治療ないし保護の大前提となります。
*2008年7月23日「精神医療施設における通信・面会の自由」レジュメ参照
2 虐待事件の実際(特に重大なもの)
我が国の精神医療法制は重大な事件(ライシャワー事件・宇都宮精神病院事件・神出病院事件・滝山病院事件など)が起こるたびに法改正や行政的対処を繰り返してきた歴史があります。
イ 出発点:宇都宮精神病院事件 1983(昭和58)年
患者2名死亡 暴行を行った看護師と院長が起訴され全員実刑
→精神保健法(昭和63年)制定の契機となった
ロ 近時①神出病院事件(神戸) 2020(令和2)年
男性看護師ら6名が起訴(3人が実刑・3人が執行猶予)
ハ 近時②滝山病院事件(八王子)2024(令和6)年
4人が逮捕・書類送検され、3人が略式起訴(罰金刑確定)
3 虐待防止に関する近時の行政等の動き(令和2年:神出事件の影響)
イ 日弁連会長声明(2020年4月23日)
障害者虐待防止法(2012)で精神科が除外され自主的措置に
委ねられていたことを問題視
ロ 厚生労働省社会援護局(2020年7月1日)
①虐待が疑われる事案の発生防止や早期発見の取り組み強化
②発生した場合の報告の周知徹底・再発防止
③実地指導における聞き取り調査の徹底
ハ 福岡県保健医療介護部健康増進課(2020年7月8日)
上記厚労省要請の管理者への連絡
4 日本精神科看護協会の手引き(2020年12月1日)
イ 定義 ①身体的虐待 ②性的虐待 ③心理的虐待
④放棄放置(ネグレクト) ⑤経済的虐待
ロ 注意点①虐待者の自覚は問わない ②障害者の自覚は問わない
③親や家族の意向と本人の情報との差異に留意 ④業務従事者の役割
ハ 防止のための体制整備
チェックリスト 研修 相談窓口の設置 虐待防止委員会
5 良好な職場環境の維持:明るく開放的な雰囲気づくりの重要性
虐待事件が発生する背景事情の1つ=医療者側のストレスが大きい。
⇒医療者におけるストレス軽減の必要性が大である。
「自分のストレス」を他人(特に弱い人)にぶつけないこと。
仕事に自分の脳を100%支配されない(←もう1人の自分を持つ)
自分の言動が他人に与える影響を「想像する力」を滋養する。
*2018年4月16日「ハラスメント研修」レジュメ参照
6 虐待防止の制度的担保
意思表示の機会 *各病棟への電話・投書箱の設置
内部通報制度 *セーフティカメラの設置
外部の救済手段 *弁護士会の精神保健相談
* 参考コラム