法律コラム Vol.66

境界確定と民事訴訟

相隣関係事件の中で最も多いのが境界確定訴訟です。「境界」は登記官が設定する公法上の境界を言うのですが経験が少ない若手弁護士には理解不足が目立ちます。特に境界確定事件(非訟事件)と土地明渡請求事件等(訴訟事件)が混在している場合に不正確さが目立つようです(私も登録し間がないときは理解不足でした)。以下は被告側で作成した準備書面の一部です。

「境界」は公法上の境界を指すのであり、登記官の行為を離れて私人の事実上の占有で移動するものではない。原告主張は全くの誤解にもとづくものである。
 本件においては「地籍図」が存在する。原告は証拠説明書において「地積図」と表記しているが単純かつ明白な誤りである(「地籍図」は不動産登記法第14条の要件を満たす「地図」・「地積図」は土地の面積を測った図面である)。法14条地図の要件は不動産登記規則第10条13条と不動産登記事務取扱手続準則第12条が定める。これらは地図の<現地復元性>を担保する重要な規程である。一般に国調地籍図は三角点成果を基礎として系統的に作成され現地の状況を正確に表していると解されている(福永宗雄著「14条地図利活用マニュアル」日本加除出版12頁)。法14条地図が存在する本件事案において境界確認とはこれを現地復元する作業に他ならない(藤原勇喜「公図の研究・四訂版」財務省印刷局420頁)。本地籍図の精度区分は*であって高くはないが低くもない(普通レベル)。原告には不動産登記法における地図の意義に関して根本的な誤解がある。(中略)
 原告が「時効取得」を予備的に主張することは境界に関する自己主張が根拠薄弱であることを自認するものと言える。「明け渡し」を求めることは更に不可解である。原告は自己が所有権主張する領域を被告建物が「越境」しているとして「明け渡し」を求めているが、その前提として被告が「占有」している事実を認めている。占有していない者には明け渡しの被告適格がないからである。しかるに原告の所有権主張根拠は時効取得である。時効取得の要件は一定期間の平穏な自主占有の継続であるが、原告は上記部分の占有が被告にあることを先行的に自白している。したがって原告主張は論理的に言って全く成り立たないものである。

* 土地家屋調査士による14条地図の現地復元作業が行われ、境界は当方主張線であることが確認されました。その前提で境界を越えて建っている原告建物敷地部分に関して分筆作業を行いました(分筆費用数十万円は原告負担)。境界を越えて建っている原告建物の敷地部分を有償譲渡する和解で終了しました。

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