法律コラム Vol.74

会社の清算を巡る訴訟

会社は資本労力の結合・企業危険の分散という意義がある反面、一部の者が他者の利益を犠牲にして自己利益を追求する弊害も生じ得ます。会社法は訴訟・非訟・罰則など公法的色彩の強い手続規定も設けています。以下は会社清算を巡る取締役(清算人)の不当な動きに対し少数株主側として対抗したときの準備書面です。旧法時代のみなし解散に際して自分らに会社財産のほとんどを退職慰労金として支出する総会決議をするとともに清算人として自己が支配する別会社に利益を流出させていた元取締役に対する責任追及訴訟です(大脇弁護士との共同)。

1 被告主張①(「清算人としての活動実体があった」との言い分)について
  被告らは平成*年*月以降の決算書を作成していないことを自白している。決算書類という清算業務において最も重要な書類の作成無視こそ被告らの行動の象徴といえる。被告は資産をむしり取ってしまった*会社には関心が無くなってしまったのである。被告らがみなし解散の前後において行ってきた活動は長年蓄えてきた*会社資産からの収奪とその正当化にすぎない。被告らは清算人として求められる次の責任を全く果たしていない(北沢正啓「会社法第6版」782頁以下参照)。イ主たる清算事務(現務の結了・債権の取立・財産の換価・債務の弁済・残余財産の分配)、ロ付随的清算事務(裁判所に対する届出・会社財産の調査と報告・社員総会の招集・書類の備置)。福岡地裁*支部が平成*年*月*日、清算人の任務違背を認め被告らを解任する裁判を行ったことは再度強調する。理由とされたのは清算人として為すべき下記任務を全く果たさなかった点にある(甲*参照)。解散事由等の裁判所への届出違背(有限会社法75条1項、商法418条)・会社財産の現況調査・財産目録・貸借対照表の作成・社員総会承認後の裁判所への提出(有限会社法75条1項、商法419条2項)・会社債権者に対する官報公告の手続違背(有限会社法75条1項、商法421条)。以上の事実に照らし被告ら主張には理由がない。
2 被告主張②(原告主張は「権利濫用」・原告には「損害」がない)について
  権利濫用という概念は「濫用」されやすい性質を持っている。本件清算人責任追求訴訟(第*号事件)は*会社から被告らに流出した金員を*会社へ返還させることを求める訴訟であって、総会決議無効確認訴訟(第*号事件)も同じ趣旨の下に提起されたものである(総会決議無効が確定した場合には仮清算人から「受領者は*会社へ返還せよ」との請求が為されることが想定されている)。本訴訟は原告らが*会社の社員として有する共益権にもとづき遂行しているもので原告個人の損害の賠償を求める訴訟ではない。被告らの主張は単なる勘違いよるものである。

* 裁判所は被告らを清算人から解任して仮清算人を選任しました。自分らに会社預貯金のほとんどを退職慰労金として支出する総会決議は無効とされ仮清算人から被告に対し返還請求が為され実現しました。さらに本訴訟によって清算手続開始後に流出した金員返還も実現しました。以上を前提に残余財産分配を含む公正な清算業務が仮清算人により行われ手続は終了しました。