和解におけるシテ(本人)への配慮
ブログ「Practice of Law」に以下の記述があります。
和解期日には必ず依頼者の同席を求め、どうしても支障がある場合には電話などで連絡可能な状況で待機してもらうことが必要である。依頼者の同席がないまま「この程度の譲歩案であれば依頼者も了解するだろう」と考え和解を成立させることは禁物である。代理人弁護士にとっては些末な問題なのに依頼者が強くこだわり、どうしても説得できない事例はしばしば経験する。依頼者の意向に反した和解は訴訟上は原則として有効である反面、依頼者との関係では債務不履行責任や懲戒事由が成立する可能性があり、代理人弁護士自身が窮地に陥る。(略)敗訴の可能性が高く、その譲歩案が客観的にみればやむをえない合理的なものであったとしても、依頼者には和解を拒絶して「敗訴判決を選択する自由」がある。裁判所や代理人弁護士が説得する「譲歩案の客観的合理性」は、依頼者からすれば「余計なお世話」かもしれない。説得の努力が尽きたところでは、辞任して着手金を全額返還するのであれば格別、辞任しない以上、どんなに不合理であれ依頼者の意向を優先させなければならない。
和解するか否か決めるのは本人です。裁判所和解案がどれほど合理的であっても依頼者本人が納得しない場合は和解してはなりません。和解は懲戒事由になり易いものです。代理人が頑ん張りすぎると「先生はどっちの代理人か?」と不信感を持たれます。成立の場面に本人がいないと後で「そんな案は聞いていなかった」と窮地に追い込まれる危険性もあります。弁護士は訴訟という舞台のワキに過ぎません。主役たるシテは本人です。和解は訴訟を終わらせてしまいます。依頼者のなかにはこのことが判っていない方すら見受けられます。和解を成立させる場面ではシテたる依頼者本人の納得を得るための細心の配慮が必要です。