法律コラム Vol.28

日常家事債務

日常家事債務(民法761条)がいかなる場合に生じるかは微妙な問題。本件事案はY(男性)の妻・訴外Aが、訴外B(教材販売会社)から子供の学習用教材を50万円以上の高額で購入し代金をX(信販会社)が立替払いしたものです。Aが無資力であるためXがYを被告として約67万円の支払を求めて提訴しました。

私法上、人が責任を負うのは、自己の意思に基づく場合か・法律の規定に基づく場合かのいずれかである。日常家事債務は意思に基づく(契約による)責任を規定するものではない。意思に拠らない(法律による)責任を規定しているのである。日常家事に属するか否かは客観的に決まる問題であり、原告が主張する「承諾」の観念を容れる余地はない。承諾を言うのならばそれは契約法レベルの問題であり、夫の原告に対する意思表示がいつ・どこで・どのようにして為されたかが具体的に主張立証されなければならない(しかし本件でかかる主張立証はない)。日常家事性が肯定されるということは妻の為した契約について夫は有無を言わさず責任を負うということである。であるからこそ判例は日常家事債務の成立には慎重なのであり、特に債務負担行為(借金等)には慎重なのである(添付「判例一覧表」を参照)。日常家事債務性の判断にあたって当事者の主観を過大に評価すべきではない。日常家事の範囲が各家計により異なることは当然であるが、それは客観的に決まるのであり、主観で左右されるものではない。たとえば妻が1000万円の買い物を無謀にも日常家事だと考えたとしても裁判所はかかる妻の主観をもとに日常家事と認定してはならない。日常家事に属するか否かは当該夫婦の社会的地位や収入・資産の状況などの客観的条件で決まる。右1000万円の買い物が日常家事になるような者がいるとしたら世界的大富豪に限られる。

* 原告の請求は棄却されました(八女簡易裁判所平成12年10月12日判決・確定)。この判決は先例としての意義が認められ判例雑誌に紹介されました(判例タイムズ1073号192頁)。新版注釈民法(21)445頁以下を分析して添付表にまとめた苦労が報われました。
* 岡山大学の右近健男教授はこの判例の評釈をしてくださいました(判例タイムズ1091号66頁)。教授は「結論は妥当だが判断過程に問題がある」とされています。外部から知り得ない事情により日常家事性が決まるのは良くないというのです。右近教授は、本件において連帯責任が否定されるべき真の理由は契約締結に至る客観的事情にあるとされます。

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