モンスタークライアントと専門職の難儀
産経新聞取材班「溶けゆく日本人」(扶桑社新書)の記述。
中でも小児科では非常識な親への対応に頭を痛めている。東京都内で小児科クリニック院長を務める小児科医(35)は「薬を出せと言うのも子供のためというより自分がゆっくり寝たいためとしか思えないケースがほとんど。全てにおいて親の都合が優先されている」「医療行為は受けて当然、治って当然と思っているから診察後に『ありがとうございました』の言葉もない」と嘆く。特に疲弊が顕著なのは自治体病院だ。大学病院が医師の引き上げを行ったことも影響し残された医師がぎりぎりの状態での仕事を余儀なくされている。月に150時間を超える残業をこなす中「よくならないのはお前のせい」「税金払ってるんだから、もっとちゃんと看ろ」など患者からの理不尽なクレームが容赦なく寄せられる。
その背景について内田樹先生はブログでこう述べています。
「患者様」という呼称が厚労省の行政指導で導入された。そのあとどういうことが起きたか。「患者様」という呼称が義務づけられてから①ナースに対する暴言が激増した。②無断外出・院内での飲酒など患者たちの院内規則違反が激増した。③入院費を払わない患者が激増した。そのようにして「医療崩壊」に拍車がかかった。これは事実だろうと思う。「様」と呼ばれると、とたんに増長して自分が偉くなったような気になり、言わなくてもいいことを言い、しなくてもいいことをしたあげくに、自分で自分の首を絞めるのである。
専門職は市民が対処し得ない事態に高度の倫理と技術で対応する仕事です。その故に市民の多くの尊敬を集めてきましたし専門職側も市民の敬意と感謝をやり甲斐にしてきました。こういった相互信頼関係が崩れようとしています。私も「モンスタークライアント」と呼びたい依頼者に悩まされた経験があります。こういう時は精神状態がズタズタになります。弁護士業も難儀です。