5者のコラム 「5者」Vol.54

「願い人来たれ」の看板

昨年、石橋文化会館小ホールにおいて久留米市の劇団0(ゼロ)公演「あわぶくたった・贄たった」を観劇。内容は概ね以下のとおりです。いろんな人が悩んでいます。不治の病で余命数ヶ月の女性。立ち上げた会社が倒産寸前の男性。不良化する子供を心配する母親。性的暴力を振るわれ復讐を誓う女性。そんな人たちの前に1枚の看板が現れます「願い人来たれ」。雑居ビルの1室に占い師がいます。そこで願いを語り、生け贄を捧げると願望が叶うのです。願望が叶うと生け贄になった人は死にます。女性の不治の病を治す代わりに自分を生け贄として申し出た男性は死にます。倒産寸前の会社は倒産を免れますが、生け贄にされた同僚が死にます。占い師は生け贄になった人の姿に次々と変わっていきます。生け贄を演じた役者が占い師を演じ分けてゆきます。劇の終盤で「あわぶくたった・煮え立った・煮えたかどうか食べてみよう・むしゃむしゃむしゃ・まだ煮えない」という童謡が流れます。病から治った女性は恋人の思いを胸に前向きに生きようとしますが、占い師は男性が「死にたくない」と呟いて死んだことを女性に示し女性は絶望の淵に立たされます。同僚を生け贄にすることにより会社を建て直した男性経営者は他の同僚により自分が生け贄に捧げられていることを知り恐怖におののきます。生け贄とされた者が舞台に勢揃いして劇は終わります。
 弁護士は「願い人来たれ」の看板をあげています。その看板をたよりに尋ねてくる相談者の中には不合理な願望に駆られている人が含まれています。弁護士はこの占い師のように<生け贄>を求めるようなことはありません。しかしながら、相談者の願いが実現する裏側で「何か別のものが犠牲になるのかもしれない」という畏れの感情は弁護士実務でも意識しておくべきでしょう。  

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