顧問としてのジレンマ
伊藤邦雄「ゼミナール現代会計入門」(日本経済新聞社)はこう述べます。
本来会計士監査は情報利用者のためにある。しかし監査報酬はクライアントである被監査企業から受け取る。このため品質を重視すべき情報利用者よりもむしろクライアント寄りの判断が行われる傾向にあり、また報酬を貰っているクライアントに厳しい態度を取りにくくなることも考えられる。(略)事実エンロンを監査していたアンダーセンは2000年度エンロンから監査報酬2500万ドル、その他の報酬2700万ドルを受け取っており同社にとってエンロンは2番目に大きなクライアントだった。会計事務所は情報利用者のために時にはクライアントに厳しい態度を取らなければならない。しかしその結果自らの収入が減少してしまうかもしれないジレンマに陥っていた可能性がある。
弁護士にとって「顧問」は有り難いものです。個別依頼がなくても契約関係に基づいて毎月一定の金額をいただけるのです。収入の変動が大きい法律事務所にとり毎月一定の金額を計算できることは事務所運営に多大なる貢献をします。他方で弁護士は社会正義の実現を標榜しています。顧問企業において違法行為が見受けられる場合には顧問契約を打ち切られることを覚悟してでも直ちに止めさせることが求められます。違法行為が行われていることを知って放置すると顧問弁護士は経営者と共同責任を問われることがあり得ます。顧問料収入に目がくらみ違法行為を指南するようになったら弁護士の職業生命が絶たれます。昔、評判が良くない某企業から電話があり「顧問になってくれないか?」と言われたことがあります。即座に断りました。が、法律事務所の経営環境が厳しくなっていけば、こんな話に飛びつく弁護士が増えていくかもしれません(涙)。