5者のコラム 「医者」Vol.78

過剰な評価意識は対象のパフォーマンスを下げる

 岩田健太郎「『患者様』が医療を壊す」(新潮選書)の記述。

まず結論から言ってしまいますが「医者と患者が対等であるべきだ」という幻想を捨てるのが大事だと思います。そして、もしあなたが患者さんだったら「ああ、私の主治医の先生は私なんかよりずっと偉大な人なんだ。この人について行けば大丈夫だ」と強く信じることをお奨めします。間違っても「医者と患者は平等だから、対等な立場であるべきだ。もし何か間違いでもしでかしたら直ぐに糾弾してやる」なんて喧嘩腰の態度を取ってはいけないのです。こんなこと僕みたいな医者が言うとむかつきますか?でも、これは「患者さんにとって」得をする選択肢です。これは「べき論」ではありません。医療の世界はどうあるべきか、という問いではなく、医療の世界はこうしたほうが患者さんにとって得ですよという提案に過ぎません。要は損得勘定(損得感情)の問題なのです。(略)なぜなら正当な評価は評価対象のパフォーマンスを下げる、これが僕が今まで得てきた「経験則」だからです。

依頼者も「弁護士と依頼者は対等であるべき」という幻想を捨てたほうが良いと思われます。素朴な心で「私が依頼した弁護士は私よりも法律問題に詳しく先を読み通せるのだ・この人について行けば大丈夫だ」と信頼することをお奨めします。「弁護士と依頼者は対等であるべきだ・もし何か間違いを起こしたら弁護過誤として訴えてやる」なんて喧嘩腰の態度を取らないほうが良いのです。こんなこと弁護士の私が言うとムカつきますか?でも、これは依頼者にとって得をする選択肢なのです。これは「感情論」ではありません。弁護士の世界はこうしたほうが依頼者にとって得ですよ、という「勘定論」に過ぎません。医者の世界と同様に弁護士業界においてもクライアントの過剰な評価意識は評価対象のパフォーマンスを下げるという「経験則」が成り立つからなのです。