近代憲法の構成原理
ジョン・ロックは「統治二論」(1690年)でこう述べています。
もし人民が、その立法部の存続期間に制限を設け、個人又は集会のうちにあるこの至高の権力を単に一時的なものとした場合や、権威を持つ人々の失策によってその至高の権力が彼らの手から失われる場合には、この権力喪失あるいは定められた期間の終了により、その至高の権力は社会に戻るであろう。そして人民は至高の存在として行動する権利を手にし、立法権を自分たちのうちに置き続けるか、新しい形態の統治を打ち立てるか、それとも古い形態の統治の下でそれを新たな人々に委ねるかを、自分たちがよいと考えるところに従って決定する権利を持つことになるのである。(岩波文庫589頁)
「統治二論」は2編から構成されています。前編は聖書の解釈論であり、サー・ロバート・フィルマーの王権神授説を否定する論陣が張られています。後編は国家権力の構成原理に関する議論であり、人民が政府を作るのは固有権(プロパティ)を保全するためであること・立法府の権威は人民の固有権を守るために政府権力を制限する目的で信託されたものであること・立法府が信託に違反する場合にその権威は喪失して人民に復帰することを骨子とします。「統治二論」は理論面で近代憲法の構成原理となるとともにアメリカ独立戦争やフランス革命の根拠となりました。
「統治二論」の思想は日本国憲法前文に次の文言で現れています。「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基づくものである。」ジョン・ロックの思想は日本国憲法において「人類普遍の原理」とされたのですね。