角層的な行動と真皮的な行動
外界にさらされた臓器である皮膚の働きは体を環境から守ることにあります。かつては単なる革袋のようにとらえられていた皮膚は厳密な防御機能を果たすことが判ってきました。その働きをする部分は表面を覆う垢の層である角層に過ぎません。ところが、この角層を構成する成分だけでも複雑で、それらの遺伝子のたった1つに異常があっても社会生活をする上に大きな支障となるような病気が起こります。角層より下の生きている皮膚組織は、むしろ重要な免疫器官です。湿疹やじんましんなど、たくさんの日常的な皮膚の病気は免疫の調節異常によるものです。またそこには環境から身を守る行動をとれるように無数の知覚神経の網が張り巡らされており、そこで得られる触覚・痛み・かゆみ・熱さ・寒さなどの感覚は大脳の大きな部分を占めています(田上八朗「皮膚の科学」)。
上記記述を人間行動を認識する規範として読み替えてみましょう。人間が外界に向けて行う「あいさつ」「ルーティンワーク」などの角層的行動はとても重要なものです。角層的行動の働きは人格的内面を外界から守ることにあります。角層的な単純行動を軽視する人もいますが、これは外界から人格的内面を守る防御機能を果たしています。僅かな異常があっても社会生活をする上で障害となります。これに対し「価値観」「信条」などの真皮部分は重要な免疫器官です。それは自己と非自己を峻別して自分に合わないものを排除する機能を有します。非社会的行動は免疫の調節異常によるものと評価することが出来ます。人格的内面は環境から自分を守るため知覚神経の網を張り巡らしており、そこで生じる内的違和感が社会的存在としての人間にとって中核的意味を有しているのです。