苦難を共にする若手弁護士の船出を祝福する
若手弁護士は、先輩弁護士(ボス)の事務所に所属し、勤務弁護士(イソ弁)として給与をもらいながら、数年間は弁護士としてのイロハを学ぶ修行をするのが普通です。その数年間で事務所開設の資金を蓄え、晴れて自分の事務所を構えることになります。若手弁護士にとって自分の事務所を構えることは嬉しいものです。「戦い」を旨とする弁護士業務で「自分の城を構えること」に喩えられる大イベントです。この日に至るまでには大いなる苦労が待ち受けています。開業資金の調達・賃借物件の契約・什器備品の取揃え・電話FAXネット環境の整備・各種書式類の準備・関係各位への連絡とあいさつ・受任事件の引き継ぎと預かり金の精算・事務職員の確保・税務の確認・社会保険関係の準備など。こういった裏方の努力により「新しい舞台の設営」がなされ、開設当日を迎えます。この日は朝から準備が大変です。お祝いの品や花束が届き夕方になると多くの祝い客が訪れてくれます(芸能人の舞台初日の雰囲気)。筑後の弁護士会には昔ながらの横の繋がりがあり、たくさんの弁護士がご祝儀を持って訪れてくれます。歳が離れた方は時間を見計らって早く帰るのが普通ですが、同期であれば遅くまで残り2次会まで同席することが珍しくありません。
世間には「商売敵なのに祝いをするのは何故?」と疑問を感じる方がいるかもしれません。確かに弁護士業務を「商売」と考えれば「ライバルの新規出店」には敵意を向けるほうが自然でしょう。しかし弁護士の仕事には「苦難」という面もあります。昔ながらの横の繋がりを感じる弁護士会において、若手弁護士の新事務所の開設は「新たに苦難を共にする若手弁護士の船出を祝福する」意味合いが濃厚に与えられています。それは「初めて子供を産む女性の苦しみを労いつつ新しく芽生えた生命を祝福する」ときの周囲の喜ばしい感覚に似ています。