良いマッサージ師から学ぶこと
何を以て「良いマッサージ師」と評価するかは案外難しい問題です。マッサージ師の全体的な統計などありませんし、気持ちの良さも客により異なります。しかしながら評判の良いマッサージ師には共通項があります。良いマッサージ師は「心もほぐす」のです。
野地秩嘉「サービスの天才たち」(新潮新書)は述べます(159頁以下)。
マッサージは、初めてかかったときに素晴らしさの全てが実感できるわけではない。何度も通ううちにお互いの心の距離が近づき、サービスを受ける側もマッサージ師の立場に立って、腕を伸ばしたり足を交差させたりするようになる。お互いが共有した時間の長さが技術を向上させ快感を増大させるのである。
この本の中で良いマッサージ師として紹介されている土方氏の言葉。
患者さんを緊張させてはいけないんです。どんな人でも初対面の人に身体を触られるのは嫌なもんです。入口から入ってきた瞬間からリラックスさせてあげるのが僕たちの仕事です。(略)白衣なんか着て偉そうにしてたら田舎の年寄りは緊張して身体がカチカチになってしまう。いくらマッサージしても体はほぐれません。
客がマッサージ師のもとを訪れるときの何十倍もの緊張感をもって相談者は法律事務所を訪れているはずです。初対面の人に身体を触られるのは嫌なことであるように、初対面の人に心の悩みを打ち明けるのは相当抵抗のある行為であるはずです。相談者の緊張を解こうとする弁護士の努力が通じたときに相談者は心身の「こり」を解きリラックスできるのです。再び土方氏の言葉。
マッサージの技術はお客さんが教えてくれるんです。学校では基本を習っただけで本当の技術を教えてくれたのはお客さんでした。
この心構えは弁護士を含む全ての「サービス業」に通じるものでしょう。