5者のコラム 「5者」Vol.8

研究と臨床の両立

「ブラックジャックによろしく」(佐藤秀峰・講談社)第3巻に印象的な場面があります。

これを見たまえ(何故臨床技術のない者が教授に?の記事)。マスコミなんてのはこんなもんだ。臨床能力のない者は医学部の教授になってはいけないんだそうだ。知ってのとおり大学病院は臨床機関であり同時に研究機関でもある。私の本分は研究でね。現在も私の下で多くの医師が重要な研究に時間を費やしている。教授の使命は教室の研究業績を重ねることだ。臨床能力が特別優れている必要はない。君が救えるのは君が出会った患者だけだ。せいぜい幼稚な自己満足に浸っていたまえ。私はすでに私の研究成果で数百万人の患者を救ったよ。

大学病院の教授が研究と臨床を同時に追求するのは至難の業です。医療は人間の生命を預かっています。抽象的理論を追求する「研究職」と具体的な患者への対応を第1義的に考える「臨床家」の役割分担が存在することは当然のことではないかと思われます。
 弁護士は当該依頼者の利益実現を目的と考えます。多くの弁護士にとって法理論は実践的課題を前に進めるに当たっての手段に過ぎず、それ自体が目的ではありません。例えば法理論AとBがある場合に依頼者にとってAが有利であるならば(抽象的理論としてはBを支持する場合でも)Aを主張するのが弁護士です。弁護士にとっては研究(抽象的な理論追求)よりも臨床(具体的な勝負)のほうが遙かに大事なのです。とは言え、医師が良い臨床を行うには最新医学の研鑽が必要です。同様に、弁護士も最新の法理論を習得する努力を怠ってはなりません。現場における臨床の重要性の指摘が自己研鑽を免れる遁辞にならないよう自戒しなければなりません。

易者

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