生き残った者の罪悪感と死者の願い
2015年に対となる作品(原作の演劇と本歌取りの映画)を観ることが出来ました。以下に挙げるのは観た当日にFBで発表した感想文です。
演劇「父と暮らせば」(井上ひさし)を観る(九州大谷短大)。原爆投下後の広島を舞台に展開される魂の再生の物語。1人だけ生き残った負い目から「自分だけ幸せになってはいけない」と信じ込んで恋を諦めようとしている娘。そこに恋の応援団長として出現する亡父。恋というものが自分だけの問題ではなく、命を承継する尊い意味を持っていることを知らせてくれる深い作品である。「生き残った者の罪悪感を救済する死者の願い」とは(天災が多い)現代に通じるテーマである。テーマはとてつもなく重いのだが、そこは天才・井上ひさし。物語の中に巧みに笑いを取り入れて「重く・深いテーマ」を「軽く・深刻にならず」描いてみせる。最近、生の舞台を間近で観る機会がなかったので観劇できて心底良かったと思う。やはり私はテレビ<映画<演劇だ。
映画「母と暮らせば」(山田洋次監督)を観る。「父と暮らせば」を本歌取りにした作品。井上がウラニウム爆弾投下後の広島を舞台に罪悪感を抱えつつ生き残った娘とその恋の行方を心配して現れる亡父の組み合わせで戯曲を書いたのに対し、山田はプルトニウム爆弾投下後の長崎を舞台に、生きる希望を失いかけた母とこれを心配して現れる亡息子の組み合わせで脚本を書いている。テーマは重いが笑いの要素が仕掛けられているところは喜劇の名手である両名の天才的な技だ。吉永小百合の存在感はさすがだが二宮和也の飄々とした演技・黒木華の押さえた演技・加藤健一の怪しい演技も素晴らしい。是非とも映画館で多くの皆様に見てほしいと願います。