5者のコラム 「役者」Vol.113

演出家による戯曲の解釈

2016年5月17日美輪明宏演出主演「毛皮のマリー」を観劇しました(福岡市民会館)。1967(昭和42)年に初演された寺山修司の名作演劇です。
この「毛皮のマリー」の上演史を概説します。(上演年・演出者・劇場・評判)。
  1967 寺山修司  アートシアター新宿文化    連日大入り満員
  1983 鈴木完一郎     西武パルコ劇場    不評
  1994 ハンス・ペータ・クロス パルコ劇場他   不評
  2001・2009 美輪明宏  ルテアトル銀座他  連日満員
  2016 美輪明宏  新国立劇場他全国10カ所   連日満員
 1983年と1994年の評価は散々でした。それは寺山修司という特異な人の世界観を演出家が理解していなかったことによるものです。寺山修司は見世物の復権を旗印に、世間から「猥褻だ・グロテスクだ」と言われるものを積極的に作品に取り入れることに情熱を注いだ奇人です。このことを理解していない人が演出をしても作品の面白みは出ません。自ら演出をするようになる2001年以降、美輪さんはフィナーレに大胆な変更を行います。原作は「明かりが灯ると、壁画『最後の晩餐』のポーズで13人のゲイが並んでいる。出演者一同一列に並んで礼をして 幕。」となっています。しかし、美輪さんは主人公「疑似親子」を寺山修司と母ハツさんに見立て、両者が聖母子の如く、天国にかえってゆくイメージを与えています。「マリー」とは聖母なのです。この演出は観客に素晴らしい感動を与えるものでした。演劇に於ける脚本は法規に似ています。脚本は文字の羅列に過ぎません。これに演劇的生命を与えるのは演出家の解釈です。美輪版「毛皮のマリー」が不滅の名作となったのは寺山美学の最大の理解者である美輪さんが優れた聖書的解釈を施したことによるのです。

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