5者のコラム 「役者」Vol.138

歌詞によるエッセイのようなもの(その5)

「そいつの前では女の子。つーんとおすまし、それは何?」
 私は若い頃、身なりに全く関心がなかった。自分の金で服を買った記憶が無い。しかし、この仕事を始めて以降、多少は「外から見える自分」を意識するようになった。朝出掛けるとき玄関の鏡で自分の姿形をみる。戦闘服たるスーツに包まれると仕事の気分に切り替わる。気分が切り替わると顔つきまで変わるらしい。ということを書いている日曜日の朝。

「近頃じゃ夕食の話題さえ仕事に汚染されていて」
 仕事を始めて最初の数年は忙しかった。2年目に事務所のマネッジメントを1人で担うことになったので負う重圧は半端ではなかった。食事時も仕事のことを考えたりしていた。自由である私的時間さえも仕事に汚染されていた。営業的な色彩の強い繋がりの中でいろんな職種の人と付き合ったのは決して悪いことではなかったが、心の底から楽しかったかと言われれば「否」と答える他は無い。「様々な角度から物事を観ていたら自分を見失ってた。」

「暗い待合室。話す人もない私の耳に私の歌が通り過ぎて行く。」
 以前は仕事で落ち込んだときに1人で暗い書庫に行き昔の事件記録を眺めていた。10年前20年前の事件記録に残された若い頃の格闘の痕跡をみると不思議と気分が落ち着くのであった。シビアだった事件ほど気力を回復させる力が大きかった。こうして平常心に戻ることが出来た私は目前の仕事をこなすために次の舞台に向かう。「いつものように幕が開く。」

易者

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