欲望拡散と品位規定
河野真樹氏はブログ「弁護士観察日記」でこう述べています。
弁護士というのは本当に大変な仕事です。大変ではない方がいるとすれば、それは本当に弁護士という仕事を極めていないのじゃないか、と見ていいようにすら思ってしまいます。どの世界もいいかげんな人はいるでしょうが、徹底して真面目に弁護士業に向き合っている方をみればつくづく厄介な仕事をやっているなあ、と思う時がたびたびあります。(略)紛争はしばしば法律を武器にとった「欲望」のぶつかり合いとなります。矛となり盾となり相手の攻撃とも向き合いながら依頼者の「欲望」の実現に努力しなければならなくなります。それだけではありません。実際は依頼者も説得しなければならない局面もあります。もともとこちらに分が悪くても相手との闘いに負ければ責められるのはもちろん、和解の説得にしても「納得できない」として逆恨みされることはいくらもあります。つまり仕事の宿命として底なしのような人間の「欲望」と向き合わなければならない仕事なのです。(略)弁護士は「品位」を重んじることが求められている仕事です。弁護士法56条1項で「品位を失うべき非行」は懲戒の対象となっていますし弁護士職務基本規程6条でも「品位」向上が努力義務となっています。弁護士がこれまで書いてきたように宿命的に人間の「欲望」に向き合うものと考えるとき、あらためて依頼者・市民にとってのこの「品位」の意味が見えてくるように思えます。彼らが依頼者の「欲望」の虜になってしまうことも、また「欲望」を彼ら自身の利益のために利用することになっても、結局、市民のためにも、この社会のためにもならないからです。
弁護士という仕事の本当の大変さを知らない(知ろうともしない)市場原理主義者は、依頼者や弁護士の「欲望」を解き放つことを「良いこと」と評価しています。彼らの声がこのまま拡大していけば、弁護士法や職務基本規程の「品位」規定は撤廃されるのでしょうか?