5者のコラム 「芸者」Vol.29

柔らかく反応する身体

大学1年生の頃は塾講師など稼げるバイトばかりしていました。しかし大学2年生の時に学習系のバイトと縁を切り他のバイトを始めました。印象に残る仕事に喫茶店の店員があります。勤めたのは国分寺駅近くの「シャノアール」です。明瞭に記憶している採用面接の際の会話。

店長「喫茶店がどういうものかは君も判ってるよね?」私「喫茶店は初めて入ったので良く判りません」店長「え?あなた喫茶店に入ったことないの?」私「うちの田舎のほうでは喫茶店は不良が行くところと言われてましたから」店長「不良?あなたどこから来たの?」私「福岡県の南のほうです」店長「うーん・大丈夫かなあ?」

バイトの最初の日は難儀でした。緊張感で体が固まっていました。オーダーをとるときは声が震え、コーヒーを出すときはカップが揺れていました。入店した客の応対・たばこを求める客の応対など瞬時の反応が要求されました。私は夜の部(午後9時まで)でしたが、閉店後の片付け等で帰るのは10時過ぎになっていました。そんな仕事を3ヶ月ほど続けた時、店長さんから言われました。「やっと体が馴れてきた感じだね。いい動きしてるよ。」接客業は頭よりも体が柔らかく反応するように訓練しないとダメなようです。体をほぐして開かれた状態で相手と接することが大事。
 事務所に迎える修習生が漏らした言葉が印象に残ります。「事務所の時間の流れ方に体がついていかない。」法律事務所の時間の流れ方は特殊です。毎日のように法廷に出かけ警察や拘置所にも出向きます。多くの依頼者との面談をこなします。頻繁に電話がかかります。その合間に書面を起案します。その時間の流れの中で仕事をこなしていくためには柔らかく反応する身体が必要なのです。

医者

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