5者のコラム 「医者」Vol.10

拘置所への閉じ込められ体験

弁護士になって間がない頃、間違って拘置所に閉じ込められたことがあります。面会終了時刻30分前頃に接見を始めたのですが、意外に時間がかかってしまい、40分位経って待合室から外に出ようとしたら、自動ドアが開かないんですね。どうも係の職員さんが、私が未だ中にいるのを忘れて、自動ドアの電源を切っていたのです。窓から出られないかなと思いましたが何せ拘置所です。ルパン三世かゴルゴ13でもない限り脱出はまず不可能です。不安な気持ちで10分ほど悩んでいたら窓を通し駐車場から帰宅しようとする職員さんの姿が見えました。私は大声で助けを求めました。あわてて拘置所に戻ってきていただき無事救出してもらうことが出来ました。
 中井久夫先生も著書「こんなとき私はどうしてきたか」(医学書院)において間違って保護室に閉じこめられた過去の経験を記しておられます。中井先生も失敗するんだから私がこんなことになっても何らおかしくはないと妙に安心しました。中井先生は閉じ込められた経験をふまえて「保護室には時計や暦が必要だ」等の具体的な提言をしておられます。転んでもただでは起きない方です。
 今から考えると拘置所に閉じ込められたことは貴重な経験。完全な拘禁施設に一瞬であれ閉じ込められたことで中に閉じこめられている人の気持ちが少し判ったような気がします。「経験したことのない人には判らない」という素朴経験主義に私は賛成しませんが実際に体験をすることは以後のものの考え方に多少影響を及ぼすものです。精神保健福祉法は医療保護入院と措置入院という入院形態を認め、他方で精神医療審査会に対する退院請求と弁護士代理人選任を認めています。違法な強制入院の事実が認められた場合、私は積極的に援助したいと思っています。

易者

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