懲戒請求の劇場化
政治の「劇場化」が指摘されて久しいところですが、法廷の「劇場化」も激しくなってきました。最近では弁護士会に対する懲戒請求までも「劇場化」する者が出現してきました。聞くところでは弁護士である某テレビタレントが訴訟記録を見てもいない他人の刑事事件に関し当該事件の弁護人を所属弁護士会に懲戒請求することをテレビ上で扇動したそうです。しかも懲戒請求が不法行為を構成することを認めた最高裁判決を意識してか、自らは懲戒請求をしていないと聞きます。
上記判決(平成19年4月24日)で田原裁判官は補足意見として次のとおり述べます。
弁護士に対して懲戒請求が為されると、その請求を受けた弁護士会では綱紀委員会において調査が開始されるが、被請求者たる弁護士は、その請求が全く根拠のないものであってもそれに対する反論や反証活動のために相当のエネルギーを割かれるとともに、たとえ根拠のない懲戒請求であっても、請求が為された事実が外部に知られた場合には、それにより生じうる誤解を解くためにも相当のエネルギーを投じざるを得なくなり、それだけでも相当の負担となる。(中略)弁護士が自ら懲戒請求者となり、あるいは請求者の代理人等として関与する場合にあっては、根拠のない懲戒請求は被請求者たる弁護士に多大な負担を課することになることにつき十分な思いを馳せるとともに、弁護士会に認められた懲戒制度は弁護士自治の根幹を形成するものであって、懲戒請求の濫用は現在の司法制度の重要な基盤をなす弁護士自治という個々の弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つけることとなりかねないものであることに自覚すべきであって、慎重な対応が求められるものというべきである。
弁護士会執行部に入ると紛議・綱紀・懲戒・市民窓口の重要性を身にしみて感じさせられます。上記補足意見は会務経験が薄い若手弁護士に熟読して欲しいものです。