5者のコラム 「学者」Vol.49

恩送りの構造

内田樹教授はブログでこう述べています。

先行研究は贈り物である。私は贈与を受けた。それゆえ反対給付の義務を負っている。けれども、贈与されたものに対する反対給付義務の遂行とは「等価のものを贈与者にお返ししてチャラにする」ことではない。反対給付義務は、「自分自身を新たに贈与者として立てる」というかたちで遂行するしかない。自分自身が新たに贈与者となることによってはじめて、被贈与者であることの負債から解放される。(略)アカデミアの目的は学生たちに自分の知的なポテンシャルに気づかせ、それを高め、活性化する方途を発見させることである。そのためには何を措いても「贈与されたものを次の受け取り手にパスする」というふるまいを会得してもらわねばならない。パッサーとなること、それが人間の知的パフォーマンスを最大化させる。

司法研修所には恩送りの伝統が息づいていました。先輩法曹から歓待を受け、司法試験に合格した喜びを再確認する。実務家としての責任の重さを実感し、自分も次世代の法曹を温かく迎える決意を固める。こういった世代を超えた法律家の生命の伝授が「恩送り」と呼ばれていました。法曹界においては「贈与は贈与者にそのまま送り返すことができない・それは次の受け取り手に向けてパスされなければならない」ということが暗黙の了解として存在していたのです。私はこれまで多くの先輩法曹から学ばせていただきました。被贈与者であることに甘んじてきたと言っても良いでしょう。しかし流石にその時期は過ぎたと感じております。このコラムは私が被贈与者であることの負債から解放されるために、自分自身が新たに贈与者となろうとして試みているものです。その責を果たすため、私は自分の中の知的パフォーマンスを最大化すべく少しばかり努力しているつもりです。

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