5者のコラム 「芸者」Vol.78

弁護士に対する贈り物

 依頼者から贈り物をいただくことがあります。民事事件は個別の委任契約で行われているものですから贈り物は基本的に自由です。刑事事件も私選であれば同様です。事件終了時に心のこもった贈り物をいただけると苦労が報われた感じがして嬉しくなります。久留米は田舎なので自分で作られた野菜や花、川で釣った魚(ヤマメなど)などをいただくこともあります。多くの場合、有り難く頂戴しています。贈り物を受け取ってはいけない場合があります。①相手方からの贈り物②国から選任されている場合③異常に高価な物④係争物です。①相手方からの贈り物はワイロ的色彩を帯びますから御法度です。交渉時に持参する人もいますが絶対受け取りません。郵送の場合は送り返します。②国から選任されている場合(管財人後見人等)は国家機関的色彩が生じるので誰からも受け取りません。国選弁護人の場合、打合の時に被告人の親族の方が贈り物を持参するときがあります。「気持ちだけ受け取っておきます」と言ってお引取り願っています。③異常に高価な物は脱税的な疑いをかけられる可能性がありますし品位を害するという見方も成り立ち得ますので受け取りません。④係争物(例えば不動産取引紛争における当該不動産)の受け取りは弁護士倫理(職務基本規定)で許されていません。マルセル・モースは「贈与とは返礼の強制である」という知見を確立し、その知見はレヴィ=ストロースなど事後の社会学や人類学の基礎となりました(「贈与論」)。贈与が「返礼の強制」の色彩を持つとすれば弁護士が受任直後に依頼者から高価な贈り物をいただくのは良いことではありません。弁護士業務には合理性で割り切らなければならない局面が付きものですが「返礼の強制」という呪術に拘束される弁護士は合理的判断が出来なくなる可能性が高くなるからです。

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