5者のコラム 「役者」Vol.93

大問題と個人の日常

映画「オロ」を拝見した感想と精神科医・富田先生との対話。
 熊本の老舗映画館(電気館)にて岩佐寿弥監督「オロ」を観る。中国の軍事侵攻から逃れてインドのダラムサラ(チベット子供村)で暮らしている10歳の男の子の物語。オロは6歳のときヒマラヤを越えてダラムサラに行った。チベット難民として困難な状況下にあるが屈託のない笑顔が印象的である。最後、オロが監督に対し「何故この映画を撮っているのですか」と問うシーンが記憶に残る。観客に対して「何故この映画を観ているのですか」と問うているようにも受け取れる。どんな大問題も個人にとっては日常として現れる(@谷川俊太郎)。「オロ」は自分の日常を取り巻く大問題が何なのかを改めて問い直したくなる名作である。
T ボクも観ました。老いた監督がオロに一生懸命かかわっていく姿が良いですね。「観察映画」ってのがありますが、好対照な「関与映画」でした。このような現実がボクらの世界にあるということを多くの人に知ってもらいたいと思います。
H ドキュメンタリーって監督の思い入れが強く出過ぎて暑苦しく感じるときがありますけど自然な流れで監督とオロの対話を表現していて好印象でした。チベットがイデオロギーで弾圧された歴史があるので、あえて静かな映画にしているのかなという印象もあります。
T チベットから子どもだけをインドに亡命させている母親たちは「自分たちはこの地を離れられないけれども、せめて子供たちだけでもどこか遠くへ」と願う福島の母親たちと構造は全く同じであることに「圏内の歌」を聴きながら気づきました。
H 権力構造の変化のため故郷を失うという意味で福島の方々は難民状態なのだと感じます。私も自分の日常を取り巻く大問題を問い直さなくては。

学者

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