5者のコラム 「学者」Vol.135

原発事故処理費用の会計学的処理

斉藤誠教授が「原発処理費用の会計処理」につき不満を語っている。(西日本新聞)
 

機構からの膨大な支援額は実はほとんどがエネルギー対策特別会計に国の借金として計上されているのである。本来であれば他の電力会社や国が最終的に負担する部分を除いたものは東電の債務とすべきである。さらに問題をややこしくしているのは機構が普通株換算で発行株の3分の2超を保有する東電株の売却益を4兆円と見込んで除染費用の原資とされている点である。売却益で4兆円を確保するには現行株価の2倍を超える水準(1株1500円)が必要で非現実的である。この仕組みはそもそも矛盾を抱えている。東電に借金が計上されなければ、その分企業価値が改善し株価は上昇する。その恩恵は保有株の3分の1を占める一般株式にも及ぶ。例えば1株500円でも0・8兆円が一般株主の取り分となる。東電の最終的所有者である一般株主は除染費用を負担するどころか収益を手にするのである。8兆円と見込まれている廃炉費用も東電負担の原則通りであれば東電の財務諸表に引当金として計上すべきである。そうすると外部の投資家は将来引き当てられている部分を控除して企業価値を見積もる。しかし現行では東電が除去費用を機構に積み立てることになっている。18年度は機構が東電に4千億円の積み立てを指示した。こうした外部積立ての仕組みでは、将来廃炉費用が著しく不足したときに、誰に負担責任があるのか明確でなくなってしまう。

本来、上場企業の会計ルールは企業の「資産・負債」「収益・費用」を明瞭にして企業価値を外部投資家が正確に把握できるように整備されました。ところが東電の原発処理費用に関しては意図的にこれが歪曲されているのです。これが「正義」に叶うことなのでしょうか?