再現すること・現前させること
「演劇学のキーワーズ」(ぺりかん社)に次の趣旨の記述があります。
「近代演劇」は文学的に完成された戯曲を舞台で再現することに究極の目的があった。劇作家によって書かれた戯曲には既に内容と主題が備わっており、それを演出家が読み取り、俳優が舞台上に提示していくのである。ここに疑義を差し挟んだのが「現代演劇」である。戯曲の舞台上の「再現」を見るだけならわざわざ劇場に行く必要は無い。俳優は既に書かれたことを忠実に舞台に置き直すだけの「代理人」ではない。もっと別の何か、劇場でなければ出来ない何かをそこで「現前」させるべきである。現代演劇はこの前提から出発した。
主尋問は陳述書を前提にそのポイントを絞って話してもらうもの。主役は証人や本人なのでオープンクエスチョンを用い自発的に話して貰うようにする。反対尋問は敵方に対するもの。臨機応変な対応が必要。台詞を覚えてから行うスタイルでは対処できない。反対尋問の主役は尋問者たる弁護士である。質問自体で相手の供述に対する疑問点を浮き彫りにしたい(役者84)。主尋問は「近代演劇」スタイルが普通です。準備書面で練られたストーリーを法廷の中で「再現」することに目的があります。尋問前に予め供述内容を陳述書として出しています。問答形式に変えて法廷に提示します。陳述書の再現だけならば裁判官は尋問を聞く必要がありません。主尋問における代理人の役割は「主役の身体」(生きた人としての当事者)を観客に示すことにあります。他方、反対尋問は「現代演劇」スタイルが合っています。準備した事項を聞くだけでは裁判官に感銘を与えることは出来ません。故に「脇役の身体」(生きた疑問を提示するプロ法律家の気迫)を示す必要があります。反対尋問でしか「現前」できない何かを表現するのが反対尋問の意義なのです。