依頼者の「主役になりたい欲望」を肯定する
斉藤由多加「指名される技術」(ゴマブックス)に次の記述があります。
客の多くがホステスを口説いてエッチしたいと思っていると考えがち。しかし彼女たちに言わせると本当の願望は別にあるという。「じゃ、それはなんですか」と聞くと「もっとも多いのは主役になりたい願望」だそうで、客の大半はこの「主役になりたい願望」で来ると六本木のYママは言う。彼女が言うには一般の男性が主役になれる瞬間というのは人生でも数えるほど多くないようで、せいぜい自分の結婚式と誕生日と人事異動したときの送別会のカラオケで歌うときくらい、だそう。毎日働いていても主役になる機会はその程度しか無い。だから年齢を増すとともにこの「主役願望」が増大するらしい。
弁護士はシテ(主役)ではなくワキ(脇役)です(役者1)。弁護士はワキとして面を着けず地味な装束で・シテの話を聞き出すことを心がけるべきである。これは客観的な役割分担として普通の記述ですが、上記引用文で指摘されているのは客観的な問題では全くありません。「主役になりたい願望」もっと言えば「主役になりたい欲望」という極めて主観的な問題です。弁護士は依頼者のこの気持ちを全面的に肯定しなければならない。逆に言うならば、この気持ちを軽視する弁護士に対して依頼者は本当の信頼感を寄せてくれないのです。弁護士が対応するのは普通の人にとっては非日常的な出来事です。一般人が主役になれる瞬間というのは人生でも数えるほど多くないとされていますが、法律問題が発生したときというのは上記数えるほど多くない希な出来事の1つです。なので本人が意思決定をするに際して弁護士は全力を尽くしてサポートしなければならない。法律問題の最終的決着を導くのは主役である本人です。主役である依頼者の自由な意思形成をお手伝いし心底から「良かった」と言っていただけるように「脇役」である弁護士は努力しましょう。