5者のコラム 「役者」Vol.40

争わない生き方・争う生き方

弁護士界の大先輩である西中努先生(大阪弁護士会)は「ベテラン弁護士の『争わない生き方』が道を拓く」(ぱる出版)でこう述べています。

弁護士の仕事というと人の争い事で儲けていると思われるかもしれませんが、それは大きな誤解です。弁護士ほど「争わない生き方」を望んでいる職業はないと思います。何故ならば争いをして人生に良いことは何もないと毎日実感しているからです。私は世の中から争いがなくなり全ての人が豊かで喜びに溢れた価値ある人生を送ることが出来るよう望んでいます。そして弁護士の仕事がなくなること、つまり揉め事や裁判がない世の中を目指しているのです。

この記述にはクールな感想を私は持ちます。社会から揉め事は無くならないし裁判という仕組みが社会から無くなることもありません。弁護士という職業そのものがなくなるという事態も絶対ないと考えます。端的に言えば、揉め事や裁判や弁護士は「必要だ」と考えています。
 他方、馬奈木昭雄先生(福岡県弁護士会)は次の言葉を座右の銘にしています。社会的な不正に対して弱者が泣き寝入りを強いられる事態は正義に反するという信念が根本にあられます。

私たちは負けない。なぜなら勝つまで戦い続けるからだ。

麻雀で喩えれば「金持ちケンカせず」というのは勝っている者のみが言える言葉。勝っている者は振り込まないよう「争わない生き方」を貫くのが勝負師としてのコツです。が、負けている者は一発逆転を狙って高めの役を狙い、又はリーチをかけ裏ドラを狙うのがスジです(可能性は低くとも)。負けの状況なのに争わない(ツモのみで上がる)のはバカです。社会的な不正を感じたときに訴訟を提起しスジを通すのは大事な舞台設営なのです。もちろん、スジを通したならば、然るべきところで和解を指向し戦いに幕を引くのが「賢い生き方」なのでしょうね。

易者

前の記事

聖なる書物と場所
学者

次の記事

逸脱行動の積極的意味