中高年男性の自殺
初めて見た芝居はアーサー・ミラー「セールスマンの死」。劇団昴・主演久米明でした。
ウィリー・ローマンは63歳の老セールスマン。トランクを2個持ちアメリカ東部をセールスしている。昔ほど売上がとれず長距離の運転も体にこたえる。家のローンは多額に残っており保険料の支払いにも追われている。ウィリーは売上の良かった時代を懐かしみ、長男の出来が良かった時や中古シボレーを買った時の思い出に生きている。妻は息子達に言う。「お父さんは疲れたのよ。36年も勤めた会社から固定給を打ち切られ歩合給になっている。毎日100キロ以上運転しても1つも売れない日があるのよ。」ウィリーは出来が良かった長男をダメにしたのは自分だと思っている。働いて妻に喜んでもらい子供を成功者にする夢は消えてしまった。ウィリーは禿頭になり猫背になり2個のトランクは重すぎるようになった。父と息子の言い合いの後、ウィリーは妻や息子らへの最後の愛情表現として自殺。その保険金でローンは完済される。妻は最後に墓の前で呟く「私は泣けない。あなたはまたセールスに出て行ったのね。家のローンの支払いは今日済ませました。でも住む人はいない。借りも払いもみんな無くなったのよ。これで自由になったのよ。借りも払いもなくなってね。」
世の中年男は皆がウィリー・ローマンだ、と大学生の私は感じました。自分の技術は時代の変化で陳腐化する。昔のやり方のままでは商売にならない。責任は重くなるばかり、体力は落ちるばかり。頭は禿げて背中は曲がる。自分の生きざまが子供に悪い影響を及ぼしていないのか不安がある。アーサー・ミラーが描くアメリカ人男性の姿は60年以上経っても古びていませんね。