5者のコラム 「役者」Vol.77

クライアントとの距離感

私は役者62で建築家の魅力と困難性を描きました。建築家の仕事と弁護士業務は似ている。斎藤浩美氏は「一流建築家と家を建てるには」(洋泉社)でこう述べます。

建築家が面白くてやめられない理由の1つは建築家自身が本質的にアーティストとしての気質を持っているからだろうと私は思っている。建築家は自分勝手に好きなものを作ったりはしない。それは決して嘘ではないが、かと言って現実には建築家はクライアントの言うがままになる存在では絶対にあり得ない。もちろん話は聞いてくれる。建築家はクライアントの希望や条件そこに住む全員の好みや趣味の領域に至るまで家をつくるに際して意外なくらいきめ細やかな対応をしてくれることが多い。クライアントの意向を無視した家造りなどプロたるもの絶対にしないというわけだ。したがって住む人のことをきちんと理解し、さまざまな了解もその都度得ながら事実「いい家」ができるのだが結果は必ずしもクライアントの当初の意向どおりとはならない。(中略)建築家は言われたとおりの家を作る職人でも業者でもない。建築家が他の家を作る人たちと完全に異なるのはここだと私は思う。家を作るという行為は同じでも本質的には種類が異なる。(32頁)

弁護士もクライアントの言うがままになる存在ではあり得ません。もちろん話は聞きます。過去の事実・現在の条件・将来の希望などを詳細に伺います。しかし結果は必ずしもクライアントの当初の意向どおりとは限りません。何故ならば法律業務においては相手方や裁判所という外部的視点との間合いを計ること(間主観性)が不可欠だからです。客観的条件の下でクライアントの主観性を最大に尊重すること。それが弁護士業務の面白いところであり、同時に難しいところでもあります。

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