ウイルスが突然変異を起こす理由
なぜインフルエンザウイルスは変異を起こすのか。それはインフルエンザウイルス遺伝子が通常の生物のDNAではなくRNAで、非常に不安定だからである。そのためにインフルエンザウイルスは「突然変異」を起こしやすい。インフルエンザウイルスは複数(8本)の分節(セグメント)を遺伝子情報として持っているため「遺伝子交雑」を起こす。2種類のインフルエンザウイルスが1つの細胞に感染した場合、理論上は256通りもの遺伝子再集合をつくる可能性がある。インフルエンザウイルスは驚異的なスピードで増殖する(1個のウイルスが1日で100万個以上に増殖する)。これらの特徴からインフルエンザウイルスは例えば哺乳類が100万年かけて起こすような変化をたった1年でやり遂げてしまう。現在懸念されている新型インフルエンザの脅威は、不連続抗原変異(大変異)を起こしたインフルエンザウイルスが出現し、誰も免疫をもたないためウイルスが世界中に大流行し、感染者の症状も重症化して大きな被害をもたらすことによる(速水融「日本を襲ったスペインフルエンザ」藤原書店・2006年)。コロナウイルス自体はありふれたウイルスで、通常は重症化することはなく、普通の風邪程度で済む。しかしSARSのような特殊なコロナウイルスは命を脅かす存在になる。SARSの流行後、専門家はこれを「実に憂慮すべき事態だ」と評した。SARSと入れ替わるように致死性の高いМERSが出現したのはそのすぐ後のことだった。危険なインフルエンザウイルスが次に何時・何処から現れるか誰も判らない。インフルエンザウイルスは人間だけでなく野生の動物や鳥、家畜も感染し、ウイルスのやりとりが繰り返されていくため、どんなウイルス株が出現するか予測することは極めて困難だ。人間と豚が近い距離で生活している地域が多い中国ではいつ新型インフルエンザが現れてもおかしくない、と言われている(サンドラ・ヘンペル「パンデミックマップ」日経ナショナルジオグラフィック・2018年)。