なるための苦労・なってからの苦労
小田嶋隆氏がブログでこう記述しています。
何を言いたいのかというと、私のような50歳を超えたライターは21世紀の若いライターさんたちが味わっている苦境を本当には知らないということで、だから不況下の出版業界で苦しんでいる若いライターは先輩を敬う必要なんかないぞということだ。ライターにとって何が一番難しいかというと、実績を持たない素人の立場から脱して最初に活字の原稿を書くためのきっかけをつかむことである。書くことよりもデビューのための入り口を見つけることの方が死活的に重要なのだ。このことは多くのライター志望者にとってデビューすることが最大の障壁になっていることを意味している。そこのところさえなんとかクリアすれば、あとは実績を少しずつ積み上げながら自分の世界を少しずつ広げて行くことができる。
どの業界も縮小傾向にある中、その世界に入っていけることとその世界で活躍していけることの意味が乖離しています。昔、弁護士業界は入るのが難しい業種でした。司法試験は日本で最高の難易度を示していました。その代わりに入ってさえしまえば普通に暮らしていける仕事が豊富にありました。しかし「司法改革」により司法試験の合格率が緩和され弁護士人口だけ大幅に増加したことを受けて弁護士になってからの苦労が目立つようになりました。法律業務を遂行することより法律業務を受任することの苦労が際立つようになってきたのです。弁護士業界も50歳を超えた者に今の若者の苦境は判らないように思われます。昔、弁護士業界は「一匹狼的な変人」の楽園でした。なってさえしまえば、自分の世界を築き、広げてゆくのが容易でした。が今や芸者的な能力の乏しい者は存在自体が危うくなってきています。それが世の中の「能力のある変人」の居場所の確保のためにどれほど悲しむべき事態であるか社会にもっと判ってほしいと私は訴えたい気分です。