5者のコラム 「学者」Vol.27

訴訟の方針あれこれ

 谷川浩司九段は「光速の終盤術」(日本将棋連盟)でこう述べています。
 a読みの筋を単純に直線的なものにする(10頁)。b受けなくてもいい局面で受けに回ったために、より大きな危険に陥るということが良くある。守る一手の代わりに間隙をついた攻めがないか?という疑問を常に頭の片隅に入れておいていただきたい(24頁)。c単純なトレーニングを数をこなしてしっかりとした基礎体力を身につける。終盤を乗り越えていくための最良のトレーニング方法はやさしい詰め将棋を何題も解くこと(137頁)。d終盤戦は感覚で指してはいけない(153頁)。e優勢な側は単純化を、不利な側は複雑化を(159頁)。
 以上の考え方は訴訟の方針にも通じるような気がします。
1 事件が勝ち筋の時は単純に対処すべきです。ただ、これは訴訟の帰趨の読みについて、自分が相手よりも優っているという条件の下でのみ言えることです。
2 裁判官が疑問を感じていない時に不要なことをして墓穴を掘る例があります。苦し紛れの求釈明を受けた際に釈明して不利な心証をもたれたら意味がありません。
3 訴訟における基礎体力を身につけるためには難しい訴訟を1件やって苦しむよりも日常的な事案を誤りなく普通の解決に導くことを複数やったほうが良いようです。
4 訴訟の終盤戦は感覚で進めてはなりません。それまでの訴訟資料を正確に分析し自己の訴訟行為の裏付けにして対処すべきです。
5 自分の側が不利であれば進行を複雑化すべきです。たとえば和解に交換条件を持ち込むなどして全体としてバランスをとるように試みると良いようです。

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