5者のコラム 「医者」Vol.32

規範と受容体

 薬は何らかの効果を期待して意図的に体に取り込む化学物質です(レスリー・アイヴァーセン「一冊でわかる薬」岩波書店)。

薬は化学物質、つまり原子が連なった分子である。薬は通常比較的小さな分子であり、だいたい原子10個から100個くらいから成る。それには実用的な理由がある。タンパク質のような大きな分子(原子2000個から2万個)は吸収されにくく、体に入ると即座に分解されてしまうのである(同27頁)。

 弁護士が相談者に与える法的アドバイスは、何らかの効果を期待して意図的にその精神に与える規範です。それは比較的「簡単な規範」であることが多いようです。複雑な規範は判りにくいので依頼者の精神に感銘を与えることが少ないことを弁護士は知っているからです。
 

どんな投与経路を使うにせよ、薬をいったん血液に入れてから実際に働く器官に届ける場合も標的器官に局所的に供給する場合も、最終的に薬は標的器官の受容体によって認識されなければならない。受容体は大きな分子で通常はタンパク質である。(略)受容体はもともと天然に存在する小さな分子が入り込む部位を持つが、そこに薬が結合する。(略)細胞には外からの信号を細胞内に伝達する仕組みがあるが薬の多くはそこで働いている受容体に結合する。受容体はいろいろな組織(筋肉・神経・腸・脳など)の細胞表面にある(同32頁)。

 相談者の受容体に弁護士の言葉が結びつくとき法律相談は薬理効果を発揮します。相談者の生活世界は巨大なものです。ゆえに弁護士が法律相談を意味あるものにするためには当該相談者固有の受容体が何なのか意識する必要があります。初めて接する相談者の受容体をどうやって認識できるでしょうか?受容体は相談者の表面に現れていることが多いようです。相談者の顔つき・しゃべり方・随伴者など多くの手がかりがあります。これらをヒントに相談者の受容体を認識し、これに結合する簡単な規範を与えることが有効なのでしょう。