5者のコラム 「芸者」Vol.17

聖なる世界と依頼者の不幸

 山口宏「裁判の秘密」(洋泉社)の記述。

実際に弁護士という仕事を始めてみると「正義感」で常に自分を鼓舞していないととてもやっていられない商売だと言うことが判った。職業柄、煩雑に通う裁判所は「聖なる世界」であり、法廷で裁判官入場の際に強いられる一礼をはじめとして独特な用語を巡る文法と民事訴訟規則という名の作法に精通していなければならない。(略)依頼人が抱えてくる不幸には下品な不幸や主観的な不幸・非理性的な不幸も多い。来客が去り電話が鳴らなくなるころから「聖なる世界」と不幸の数々をつなぐ書面作りに没頭しなければならない。請求をしても報酬を払ってくれない顧客もいる。秘書の給料と事務所の家賃やOA機器のリース代を支払うための資金繰りが常時気になる。要するに弁護士稼業は儲からないのである。

 裁判所という「聖なる世界」と依頼者の「不幸」をとりもつ存在が弁護士です。前者は論理と理性が支配し、後者は感情と非理性が支配します。両者の極端なギャップを埋めるために、弁護士は多大の苦悩を背負うことになります。この苦悩の中身は弁護士以外の方には判ってもらえないと思います。他方で「弁護士稼業が儲かるか?」という問いに対して一般的に回答することは出来ません。弁護士稼業は自由業であり、人によって粗収入は全く違うからです。ただし弁護士所得はここから必要な経費を差し引いた残りです。経費が毎月必ず一定金額で発生するのに対し売上は極めて変動幅が大きく赤字の月は心配になります。これは自由業の宿命ですけど世間の人が思っているほど弁護士業は楽な商売ではありません。弁護士が仕事に費やす時間は膨大です。時間あたりの単価で言えば、おそらく弁護士の仕事の対価は世間の人が思っているよりもかなり小さいはずです。